日刊サンWEB

過去記事サイト

 

古今東西、人々を魅了し続けて止まない天然石

地球からの贈り物、天然石(鉱物)は、古代から世界の様々な地域で、宝飾品やお守り、顔料や薬として人々に利用されてきました。古代エジプトの医学書『エーベルスパピルス』では、鮮やかな藍色の「アズライト」が白内障の治療薬の材料として記されており、また古代ローマでは、赤灰色の光沢を放つ「ヘマタイト」が戦闘時の兵士の護符として用いられていました。

近代では、1960年代にアメリカ西海岸を中心に起こったニューエイジムーブメントで、天然石にはヒーリング効果があると解釈され、その考えは今もアメリカの鉱物収集家たちに大きな影響を与えています。日本では、2000年代前半に起こったスピリチュアルブーム以来、癒しやポジティブなエネルギーを得られるお守りなどとして、また単に鉱物として収集する愛好家が増えるなどして、天然石が定着しました。今回は、沢山の種類がある天然石のうち、いくつかの石をご紹介しながら、その魅力に迫ってみたいと思います。

 

水晶

《色》 無色《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 7《和名》 玻璃(はり)

天然石と呼ばれるものの中で、私たちの一番身近にある水晶は、二酸化ケイ素(SiO2)が結晶してできた鉱物です。無色透明で美しい六角柱状の結晶を成すことから、古代ローマでは、永久に溶けない氷の結晶と信じられていました。日本では、旧石器時代に既に石器に加工して利用されており、弥生時代以降は勾玉や菅玉などの装飾品として用いられました。水晶は日本の国石であり、月の別名である「水精」や、仏教で極楽を飾ると言われる七宝の1つ「玻璃」とも呼ばれています。英語名のCrystalは、ギリシャ語で氷を意味するKrustallosから来ています。世界各地で産出しますが、特に採掘量が多い地域は、アメリカのアーカンソー州、ブラジルのミナスジェライス州です。

 

モース硬度 整数で10段階に分かれている鉱物の硬さの尺度。傷のつきやすさを基準としている。10に近づくほど硬さを増す。

 

ローズクォーツ

《色》 淡いピンク〜ピンク色《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 7《和名》 紅水晶(べにすいしょう)、薔薇石英(ばらせきえい)

愛情を司る石として有名なローズクォーツは、水晶にチタン・鉄・マンガンが微量に混入し、ピンク色になった鉱物です。透明な水晶や紫水晶とは異なり、結晶として見つかることは滅多になく、レア物として扱われています。水晶の仲間で、何故ローズクォーツだけが結晶になりにくいのかは今のところよく分かっていません。ローズクォーツの名前は、ギリシャ神話に登場する愛と美の女神、アフロディーテに捧げられたバラの花(ローズ)に由来します。市場に出回っているものの多くは、ブラジルのミナスジェライス州産で、他にマダガスカル、インド、ナミビアなどからも採掘されます。特にマダガスカルでは、透明度の高い良質のものが採掘されます。

 

アメジスト

《色》 薄紫〜赤紫 《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 7  《和名》 紫水晶(むらさきすいしょう)

アメジストは水晶が紫に色づいたもので、ライラックのような薄紫から葡萄のように濃い赤紫まで、幅広い色合いの紫色はケイ素を置換した微量の鉄イオンによるものとされています。アメジストと人類の歴史は古く、紀元前3100年ごろのエジプトでは、アメジストを加工したビーズや印鑑などが作られていました。旧約聖書では高僧の胸当てに飾られる宝石の一つとして登場し、古代ローマの博物学者プリニウスが著した『博物誌』には「最も質が良い紫水晶はインド産のもの」などと記されています。Amethystの名前はギリシャ語で「酔わせない」を意味する Amethustos に由来します。世界最大の産出地はブラジルのリオグランデ・ドスール州で、その他、スリランカ、マダガスカル、中央アフリカ、ザンビア、日本では、宮城県、鳥取県、栃木県などからも採掘されます。特にザンビア産のものは、奥深い赤紫色でありながら透明度が高く、最高品質のアメジストとされています。

 

ターコイズ

《色》 水色〜青緑 《光沢》 ロウ光沢、ガラス光沢 《モース硬度》 7 《和名》 土耳古石(とるこいし)

晴天の空にうっすらと雲がかかったような美しい色合いのターコイズは、古代から世界各地で装飾品や護符として愛好されて来ました。古代ペルシャ(現在のイラン周辺)では、約2000年前からターコイズが採掘され、紀元前3000年頃のエジプトでは、貴族や王族の間でターコイズを使った指輪や胸飾りが用いられたり、ビーズやスカラベなどに加工されました。Turquoiseの名前は、フランス語で「トルコの石」を意味する Pierre Turquoise に由来します。アフリカ北西部のアトラス山脈周辺で産出されたターコイズが、貿易でトルコを経由しヨーロッパに広まったため、トルコ石と呼ばれるようになったと言われています。アメリカンインディアンには「空の石」と呼ばれ、紀元前から儀式の道具や装飾品として用いられてきました。ターコイズの主な産地は、アメリカ南西部、アフガニスタン、オーストラリアのビクトリア州、クィーンズランド州などです。

 

ラピスラズリ

《色》 濃い青〜群青色 《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 5 〜5.5 《和名》 瑠璃(るり)

人類に世界で最初に宝石として認知された鉱物の一つ、ラピスラズリは、主にラズライト、ソーダライト、アウイン、ノーゼライトという4種類の鉱物から成っています。夜の始まりの空のように深い青色のラピスラズリは、数千年前から世界各地で宝石や顔料として珍重され、ツタンカーメン王のマスクや、中尊寺金色堂の止め金具、メディチ家の紋章、ルイ14世の塩入れなど、様々なものの装飾に用いられてきました。また、紀元前1800〜1600年頃の古代バビロニアでは、ラピスラズリの石の粉で絵を描いた岩盤を護符としていました。「ラピス」はラテン語で「石」、「ラズリ」はアラビア語で「群青の空の色」を意味します。日本名の「瑠璃」はサンスクリット語で瑠璃を表す「ヴァイドーリャ」の音訳です。古代から続く産地はアフガニスタンのバダフシャン州で、その他、ロシアのイクルーツクやバイカル湖周辺、アメリカのコロラド州、チリのトゥラエン周辺などからも採掘されます。

 

ムーンストーン

《色》 無色、白、灰、橙色、褐色など 《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 6.0〜6.5  《和名》 月長石(げっちょうせき)

この石は、色の薄いものをカボションカットにすると「シラー効果」という縞状の月光のような光を放つことから、1600年代から「ムーンストーン」と呼ばれるようになりました。ムーンストーンは紀元前1世紀ごろから人々に認知されており、プリニウスの『博物誌』や、11世紀ドイツの教会博士アルベルトゥスが著した『鉱物書』には、「この石は月の満ち欠けに従って、大きさや形を変える」と記されています。夜に明るい光がなかった古代や中世の時代、この石を月に照らして見ると本当に形が変わるように見えたため、このように記述されたようです。ムーンストーンの主要産地はスリランカで、その他、インド、マダガスカル、タンザニアなどからも採掘されます。

 

アクアマリン

《色》 薄水色〜水色 《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 7.5〜8  《和名》 藍石(あいぎょく)、藍柱石らんちゅうせき)、 水宝玉(すいほうぎょく)

アクアマリンは青色「ベリル(緑柱石)」というケイ酸塩鉱物のことです。ちなみに、鮮やかな緑色のベリルはエメラルドになります。アクアマリンの名前は、ラテン語で「海水」を意味する「Aqua Maris」から来ています。中世ヨーロッパでは、海水がそのまま鉱物に変化したかのような見た目から、アクアマリンを海に投げ入れるとすぐに海中に溶けてしまうと信じられ、海の力を宿した特別な石として珍重されていました。美しい別名の多いアクアマリンですが、取り分け有名なのが「夜の女王」という作り名。これは、この石が中世ヨーロッパの夜の照明だった月光やロウソクの光に照らされたとき、さらに輝いて魅力を増したことに由来します。アクアマリンの主な産地は、インド、スリランカ、パキスタン、アフガニスタンなどです。

 

ガーネット

《色》 赤褐色、暗赤色、黄、緑など 《光沢》 ガラス光沢 《モース硬度》 6.5〜7.5 《和名》 柘榴石(ざくろいし)

ガーネットは、形や色がザクロの実の種子に似ていることから、ラテン語で「種子」という意味のGranatumに由来してGarnetと呼ばれるようになりました。旧約聖書の『創世記』では、神が大洪水を起こし、その中をノアの箱舟が四十日間漂流した際、箱舟のカンテラとして使われたガーネットが、その強く赤い輝きで舟を守りながら進む方角を照らし続けたといわれています。暗い赤色のものが一般的ですが、赤色の他にも緑色や黄色など様々な色のガーネットがあり、光の質によって色が変化する「カラーチェンジガーネット」という珍しいものもあります。また、アリゾナ州に生息するアリの一種は、蟻塚を作る時に土を掘ますが、地中に混ざっているガーネットも一緒に掘り出すので、それを不要物として巣の入り口に捨てる、という珍しい習性があります。その米粒のように小さなガーネットは、蟻塚(anthill)ガーネットと呼ばれています。ガーネットは、インドからの採掘量が最も多く、他にスリランカ、ブラジル、マダガスカル、タンザニアなどからも産出します。

 

私たちを見守る12種類の誕生石

生まれ月の石を身につけると、その人を守ると言われている誕生石。この12種類の石は、旧約聖書の「出エジプト記」に記されている大祭司アロンの「裁きの胸当て」に嵌め込まれた12個の貴石、そして新約聖書の「ヨハネ黙示録」に記されているエルサレムの城壁の土台石に飾られていた12種類の宝石に因んでいると言われています。現在の誕生石は、1912年にアメリカ宝石商組合が定めたものが基となっています。

 

 

 

石にまつわるあれこれ

ギリシャ神話とアメジスト

ギリシャ神話に登場する、ぶどう酒と酩酊の神ディオニソスは、酒に酔った際にハメを外し過ぎたため、彼の父であり全能の神であるゼウスにひどく怒られてしまいました。それを不服に思いイライラしていたディオニソスは、憂さを晴らすため、自分の家来である猛獣のピューマを、偶然通りかかった美しい妖精アメジストにけしかけました。驚いたアメジストは逃げ惑いましたが、バッカスはけしかけるのをやめませんでした。それを見たアメジストの主人、月の女神ダイアナは、アメジストを透明な水晶の杯に変え、彼女の窮地を救いました。  アメジストが姿を変えたその杯のあまりの美しさに、バッカスは酔いを忘れて涙を流し、自分の行動を反省しながら、その杯にぶどう酒を注ぎました。そして、その杯でお酒を飲んだ人はどれだけ飲んでも酔うことはない、という特別な力を杯に与えました。  それ以来、アメジストは悪酔いを防ぐ石と言われるようになりました。

 

日本の天然石採掘スポット

火山の多い日本では、全国各地に天然石が採掘できるスポットがあります。  火成岩のペグマタイトが多く分布する福島県の石川山では、水晶やアクアマリンが採掘でき、同じく福島の蛍鉱山には、「ズリ」という鉱山開発で採掘された後の石が捨てられている所に、蛍石や水晶のかけらが大量に落ちていて、拾うことができるそうです。  滋賀県にある田上山もペグマタイトで形成された山で、質の良いトパーズが採掘でき、明治時代には田上山産のトパーズが欧米へ向けて大量に輸出されていました。その他、茨城県の久慈川でメノウが、京都府の船岡鉱山でマラカイトが採掘できるなど、全国各地に様々な種類の鉱石が採れる場所があります。  現在の日本では、商業目的での宝飾品としての鉱物の採掘はほぼ行われていないそうですが、かつて採掘が行われていた鉱山周辺は、休日ごとに鉱物愛好家たちが集い、採掘や採集を楽しむスポットとなっているようです。

 

 

宮沢賢治(1896年〜1933年)と天然石

 

 

1896年(明治29年)、岩手県花巻市に生まれた詩人・童話作家の宮沢賢治は、子供の頃から大の鉱物好きで知られており、盛岡中学時代には周囲から「石コ賢さん」と呼ばれるほどでした。 彼の作品の中には、しばしば石が登場し、その文章を宝石細工のように輝かせています。ここでは、賢治の作品中で、石の描写が登場する部分をいくつかご紹介したいと思います。

 

 

「河原の礫は、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉(トパーズ)や、またくしゃくしゃの皺曲をあらわしたのや、また稜から霧のような青白い光を出す鋼玉(コランダム)やらでした。」 −『銀河鉄道の夜』

「さめざめとひかりゆすれる樹の列を ただしくうつすことをあやしみ やがてはそれがおのづから研かれた 天の瑠璃の地面と知ってこゝろわななき 紐になってながれるそらの楽音」 −『青森挽歌』

「お日さまは、空のずうつと遠くのすきとほつたつめたいとこで、まばゆい白い火を、どしどしお焚きなさいます。その光はまつすぐに四方に発射し、下の方に落ちて来ては、ひつそりした台地の雪を、いちめんまばゆい雪花石膏の板にしました」 −『水仙月の四日』

 

 

 

 

参考:NAVERまとめ – https://matome.naver.jp/

Wikipedia – https://www.wikipedia.org/

天然石・パワーストーン意味辞典:http://www.ishi-imi.com/

写真:ウィキペディア