「酒は百薬の長」という言葉がありますが、これは「適量の酒は、どんな薬よりも健康のためによい」という意味で、西暦80年ごろの中国の史書『漢書』の「食貨志」に記されている故事です。この言葉の通り、近年、適量のお酒は、私たちの体に様々なよい影響を与えることが分かってきています。今回の特集では、ビール、ワイン、日本酒にスポットを当てて、それぞれに含まれる有効成分と健康効果をご紹介します。
ビール
紀元前4000年にメソポタミアが起源とされ、人々に親しまれているビールは、麦、ホップ、水を原料として作られます。まず、収穫した麦を洗って水に浸し、発芽させて「麦芽」を作り、焙煎します。焙煎した麦芽をサイロに入れ、1ヶ月ほど熟成させた後、麦芽を砕き、温水を加えます。こうすると、麦芽の酵素がデンプンを糖に変え、糖化した液体になります。この液体をろ過してホップを加え、煮沸した後、5℃くらいに冷まして酵母を加え、タンクに入れて発酵させます。7〜8日間発酵させると、酵母が糖分をアルコールと炭酸ガスに分解します。これをタンクに移し、0℃の低温に保ちながら数十日間かけて熟成させます。こうして作られたビールには、カルシウム、ビタミンB群、葉酸、鉄分、タンパク質など、私たちの美容や健康に良い様々な成分が含まれています。
<有効成分と美容・健康効果>
疲労回復・ダイエット
ビール酵母にはビタミンB群が豊富に含まれています。ビタミンB1は、体内の代謝の過程で補酵素として働き、ビールに含まれる炭水化物を素早くエネルギー化するため、疲労回復効果が期待できます。ビタミンB2は、脂質の燃焼を助けることで新陳代謝を促すため、ダイエットに効果的と言われています。
抗酸化作用
抗酸化作用とは、有害な活性酸素から体を守る働きのことを言います。ビールのホップには、抗酸化作用のあるポリフェノールが含まれています。KIRINの「ビールの抗酸化作用に関する研究ノート」によると、ラットを用いた研究で、ビールの抗酸化活性は赤ワインと同程度であるというデータが得られたということです。ポリフェノールの抗酸化作用は、老化を遅らせたり、動脈硬化を予防すると言われています。
骨を強くする
2010年、カリフォルニア大学の研究グループが、ビールには骨を強くしたり、骨粗しょう症などの予防が期待できる「ケイ素」を多く含むという研究結果を発表しました。この研究では、ビールの種類によって、1ℓ当たりに含まれるケイ素の量は6.4〜56.5mgと差があり、最も含有量が高いのは大麦麦芽とホップを多く含むペールエールで、含有量が低いのは小麦ビールやノンアルコールビールということも証明されています。
美肌や美髪
ケイ素は「ケイ酸塩」として骨、皮膚、髪、爪、血管、細胞壁など、私たちの体のいろいろな部位に含まれています。体内にあるケイ素は、肌の保湿や、髪、爪、コラーゲンの再生などを促します。また、皮膚の弾力を保つエラスチンと、潤いを保つヒアルロン酸を結んで肌を強く健やかに保つ働きがあります。
動脈硬化、心筋梗塞、脳卒中の予防
2013年、ギリシャのパロコピオ大学のカリオピ・カラツィ氏は『Nutrition電子版』に「ビールは、動脈硬化予防に対して有益な効果がある」という旨の研究結果を発表しました。健康な非喫煙者の被験者に、約400mlのビールを飲んだ2時間後に血流がよくなり、動脈が柔軟になったということです。カラツィ氏は「ビールに含まれるアルコールと抗酸化物質の相乗効果によって動脈機能が向上したようだ」と述べました。この研究結果は、適量のビールは、動脈硬化やそれに起因する心筋梗塞、脳卒中の予防につながる可能性が高いことを示しています。
胆石の予防
私たちの体内にある老廃物は「胆汁」となって体外に排出されますが、その排出路になるのが胆管や胆嚢です。胆石は胆汁の成分が石状になったもので、これが胆管や胆嚢を詰まらせてしまいます。ビールは、浸透圧が人間の体液に近く、高い利尿作用があるため、胆石を押し流す効果があると考えられています。
【ビール豆知識】
ビールに使われるホップは、アサ科カラハナソウ属のつる性植物で、株が雄と雌に別れています。ビールの醸造に使われるのは受精していない雌株の花です。ホップには、ビールに苦味と香りを加えたり、泡持ちをよくしたり、タンパク質を沈殿させてビールの透明度を保つ働きがあります。
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ワイン
ワインは、成熟して糖度が高まったブドウの果実が原料です。秋に収穫され、軸が取り除かれた後、果汁を搾り、皮、種と共にタンクに入れて発酵させます。発酵した後、圧搾機にかけて皮と種を除き、樽に詰めて熟成させます。熟成の過程では「澱(おり)」と呼ばれる沈殿物を取り除く作業が何度か行われます。熟成を終えたワインは、不純物を取り除くために濾過され、瓶に詰められます。ロゼワインは発酵の途中で、それぞれ皮と種が取り除かれて作られます。こうして作られたワインには、ブドウに含まれるビタミン、ミネラル、ポリフェノールなど多くの有効成分が含まれています。また、普通の食べ物からの栄養成分の吸収率が平均35%であるのに対し、ワインからの吸収率はほぼ100%と言われています。これらのことを実践的に知っていた古代エジプト人は、ワインを嗜好品として飲むだけでなく、内臓の薬としても処方していました。
<有効成分と美容・健康効果>
【白ワイン】
高血圧予防・むくみ防止
白ワインには、過剰に摂取したナトリウム(塩の成分の一部)の排出を促すカリウムが多く含まれるため、血圧を下げる働きがあります。また、カリウムには利尿作用もあるため、むくみ防止の効果も期待できます。
抗菌効果
白ワインに含まれるオレイン酸、リノール酸などの有機酸は、大腸菌、ピロリ菌、サルモネラ菌に対して高い抗菌力があります。フランスでは、昔から生牡蠣と一緒にシャブリなどの白ワインを飲む習慣がありますが、これは白ワインが牡蠣の生臭さを消して味を高めるということの他に、食中毒を防ぐ効果があるためです。10万個のサルモネラ菌を白ワインに10分浸けると、全滅するという研究結果もあります。
【赤ワイン】
抗酸化作用
赤ワインの健康効果といえばポリフェノールの抗酸化作用を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。黒ブドウ果実の皮、実、種を発酵させて作られる赤ワインは、白ワインよりもポリフェノールの含有率が高くなっています。赤ワインに含まれるポリフェノールの一種、レスベラトロール、プロアントシアニジンには、特に高い抗酸化作用があります。
貧血予防
赤ワインに含まれるミネラルの一種、モリブデンは造血を促し、貧血を予防する効果があると言われています。モリブデンは、豆類にも多く含まれる成分です。 代謝促進・肌の健康維持 赤ワインには、水溶性ビタミンの一種、ビオチン(ビタミンH)が含まれます。ビオチンは炭水化物、資質、タンパク質の代謝を促す働きがあります。また、皮膚の痒みや荒れを引き起こすヒスタミンの生成を抑制するので、アトピー性皮膚炎などの改善にも効果が期待できます。ビオチンは、レバーにも多く含まれる成分です。
脳細胞の活性化
赤ワインに含まれるマグネシウムは、人の体の細胞全てに存在し、300種類以上の酵素の働きを助け、代謝を促しています。マグネシウムが脳のエネルギーとなるブドウ糖の代謝を促進することで、脳細胞が活性化すると考えられています。
【スパークリングワイン】
スパークリングワインは、醸造した白ワインに糖分と酵母を加え、瓶やタンクに入れて二次発酵させるというものです。含まれる有効成分や殺菌効果は基本的に白ワインと同じですが、酵母と接する時間が長いスパークリングワインは、白ワインよりもアミノ酸が多く含まれています。
【残ったワインの活用法】
★温めて、オレンジジュースやシナモン、蜂蜜を加え、ホットワインとして飲む。
★カットした果物や蜂蜜を入れて冷蔵庫で一晩寝かせ、サングリアを作る。
★ステーキのソースやシチューに加える。
★残ったワインの瓶に酢を加え、蓋をして4〜5日寝かせ、ワインビネガーを作る。
日本酒
古代から日本人に親しまれている醸造酒、日本酒は、米を発酵させて作られるお酒です。「発酵」とは、酵母が糖分を分解してアルコールを生み出すことです。原料の米に含まれるデンプンを麹菌の酵素で糖に変え、そこへ酵母を加えて発酵させるという工程で作られます。こうして醸造された日本酒には、米本来の成分に加え、発酵過程で作られる100種類以上の有効成分が含まれています。
日本酒の庵 tribecaforchange.org
<有効成分と美容・健康効果>
肌のシミ・くすみの防止
麹菌の発酵過程でできる発酵代謝物質「コウジ酸」は、紫外線による肌の炎症や活性酸素を抑えることで、シミの原因であるメラニンを生成する酵素の働きを抑制する性質があります。また、体内でタンパク質と糖が結びついて糖化することで肌に現れる「くすみ」を予防する作用もあります。これは、コウジ酸が糖化のときに作られる黄褐色の物質の生成を抑えるためです。コウジ酸が配合された塗り薬は、皮膚科でシミなどの治療に使われています。
肌の弾力・潤い維持
日本酒の旨味成分「αGG(アルファグリコシルグリセロール)」は、麹の酵素が、酵母が作り出すグリセリンとブドウ糖を結合させてできる成分です。αGGは、肌の弾力を維持し、保湿を促すコラーゲンやヒアルロン酸の生成を促進させます。
記憶力の向上・血圧降下作用
日本酒には「フェルラ酸」というポリフェノールの一種が含まれます。フェルラ酸は、脳細胞・脳神経を保護することで記憶力を向上させたり、抗酸化作用によって血圧を下げる働きがあると言われています。
肌の潤いを保つ・脂肪の燃焼を促す
日本酒には約20種類のアミノ酸が含まれ、その含有量はワインの約15倍となっています。肌の潤いに欠かせないコラーゲンは、アミノ酸で構成されているタンパク質。これは、皮膚の角質層の潤いを保つ働きがあります。また、アミノ酸は脂肪分解酵素「リパーゼ」を活性化し、脂肪の燃焼を促進します。
血行促進・疲労回復
日本酒に多く含まれる「アデノシン」は、収縮した血管を拡張して血行を促進する作用があるため、日本酒を適量飲むことで、冷え性改善、疲労回復、育毛などの効果が期待されます。
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【日本酒化粧水】
昔の日本では、日本酒を水で薄めたものが化粧水として使われていました。日本酒を作る杜氏は白く潤いのある手をしていますが、これは日本酒に含まれるコウジ酸に加え、古い角質層を除いて肌を滑らかにするフルーツ酸が手の肌に作用するためと言われています。
<用意するもの>
・瓶などの容器
・消毒用アルコール(あれば)
・グリセリン
・精製水
・日本酒(純米酒)
<作り方>
1)容器を熱湯かアルコールで消毒する。
2)消毒した容器に、日本酒と精製水を1:1の割合で入れる。
3)2)にグリセリンを数滴垂らす。
4)3)をかき混ぜて、できあがり。
精製水(purified water)はスーパーなどで、グリセリン(glycerin)はオンラインなどで購入することができます。日本酒化粧水には、米、米麹、水のみが原料の純米酒が向いています。また、純米酒は醸造アルコールを含まないため、コウジ酸が多く含まれています。日本酒化粧水は冷蔵庫で保管し、2週間以内に使い切るようにしてください。また、ご自分のお肌に合うかを確認してからご使用ください。
●この記事は、飲酒の習慣のない方に飲酒を勧めるものではありません。
●情報はメーカーや学会などで独自に調査されたものであり、医学的根拠を証明するもではありません。
●飲酒の際は、常に適量を心がけましょう。
●21歳未満の飲酒は法律で禁止されています。
<参考文献>『知っておきたい「酒」の世界史』 宮崎正勝/角川学芸出版
<参考URL>アサヒビール https://www.asahibeer.co.jp
サッポロビール http://www.sapporobeer.jp
シャルマンワイン http://www.charmant-wine.com
NAVERまとめ https://matome.naver.jp