記憶の種類 (短期記憶、意味記憶・・・記憶のいろいろ)
◉短期記憶
短期記憶は数10秒から数分の間のみ保持され、それが過ぎると消えてしまう記憶のことです。短期記憶で1回に記憶できる数字は約7個と言われ、これは「マジカルナンバー7±2」と呼ばれています。
数字や単語を記憶する時、人が記憶できる量を「チャンク(塊)」で表すと7±2個の範囲に収まるという考え方です。短期記憶の容量は覚えるものの種類によって変わり、数字は約7個、文字は約6個、単語は約5個と言われています。
短期記憶の例として挙げられるのが電話番号です。レストランの予約などで電話をかける時など、電話番号を見ながら数字を入力して電話することがあるかと思います。入力時には番号を覚えていますが、電話がつながると忘れてしまいます。
◉長期記憶
戦術の電話番号の例を用いると、長期記憶は暗記した電話番号にあたります。最初はすぐに忘れていた電話番号も、繰り返しかけていると暗記してしまいます。
記憶されやすいのは喜怒哀楽や驚きを伴う印象的な出来事や、英単語のように何回も繰り返し学習したことです。長期記憶は脳の倉庫のような領域に保管されていますが、そこには数十億もの出来事、数字、単語などのアイテムを保管できると言われています。
そして1度長期記憶が形成されると、情報の種類やそれを取り巻く情況によって、短くて数時間、長くて数年、時には死ぬまで脳に残ります。
◉陳述記憶
陳述記憶とは、記憶を言葉やイメージなどで思い描くことができ、その内容を話せる(陳述できる)記憶のことです。陳述記憶は、「エピソード記憶」と「意味記憶」の2つに分けられています。
エピソード記憶
エピソード記憶とは、一般に記憶として捉えられている記憶で、場所、時間、その時に感じたことなどで構成されています。過去のことを具体的に思い出そうとした時に出てくるのは、ほとんどの場合、自分が過去に体験した出来事。思い出そうと意識して思い出すことができるため、「顕在記憶」とも呼ばれています。
エピソード記憶の仕組みが脳にでき始めるのは3、4歳頃といわれており、私たちがそれ以前の記憶をあまり持たない原因の1つとされています。エピソード記憶は、時間が経つにつれて状況や感覚などが薄れていき、最終的には意味記憶になると言われています。
意味記憶
意味記憶とは、勉強などで得られる「知識」のことで、自分自身の経験とは関係のない記憶です。例えば、英単語の“tree”は日本語で「木」という意味であるとか、「ペリーの黒船来航は江戸時代末期」などの記憶は意味記憶にあたります。
「イギリスの首都はロンドン」という知識を思い出す際、「イギリスの首都を習ったのは、小学校2年生の社会科の授業だったな。教えてくれたのは担任の伊藤先生。メガネをかけた小柄な女性だった。午後1時半くらいで、眠かったな」というような思い出し方をすることはほぼありません。
これは、「イギリスの首都はロンドン」という知識に何度も触れる機会があったため、「いつ、どこで、誰が」などの情報は消え、内容だけが残ったものと言われています。
また、意味記憶は「きっかけ」によって思い出され、新たな体験を重ねることで、エピソード記憶に変化すると言われています。例えば、相手に話した内容を自分は覚えているのに、相手は覚えていないことがありますね。人に話したことが記憶に残りやすいのは、話すという動作を行うことでその時の状況や感じたことなどが記憶され、エピソード記憶に変化するためと言われています。
◉非陳述記憶
非陳述記憶とは、内容を思い浮かべることも、言葉でも説明することもできない記憶のことを言います。非陳述記憶は「手続き記憶」と「プライミング記憶」の2つに分けられています。
手続き記憶
手続き記憶は、感覚で覚える記憶です。例として、楽器の演奏、泳ぐ、自転車に乗る、コンピュータを使うことなどが挙げられます。これらは、実際には脳が記憶するものの、記憶を意識せず自然に行われるため記憶として捉えにくいと言われます。
手続き記憶は、車の教習所で運転の練習をするなど、同じ経験を何度も繰り返すことで形成されます。1度記憶されると、身体が自動的に記憶に沿って動きます。そのため、手続き記憶は記憶の種類の中で最も忘れにくいと言われています。
プライミング記憶
前の事柄が後の事柄に影響を与えることを「プライミング」と言います。例として、「あか」「あお」「きいろ」という文字を見た後、「みど…」という文字を見たとします。おそらく、ほとんどの人が「みどり」を思い浮かべるのではないでしょうか。
これは「プライミング効果」と呼ばれ、この効果を発揮した際、無意識に機能するのが「プライミング記憶」です。 プライミング記憶は素早く状況判断する場面などに役立つ一方、勘違いの原因にもなります。
「ハワイアンミュージック」「ハワイアンスィートブレッド」「ハワイアンカルチャー」「ハワアインエア」のように、似たようなカタカナ文字が並んでいると、1、2箇所間違えていても気が付かないことがあります。このような読み間違いは、プライミング記憶による勘違いなのです。
◉メタ記憶
メタ記憶とは「自分の記憶の中にある事柄が存在するかどうか」についての記憶です。認知心理学では「記憶についての記憶」と呼ばれています。
例を挙げると、昨日覚えた新しい英単語を思い出そうとしても思い出せないという時、「昨日新しい英単語を覚えた」というメタ記憶はあるけれど、覚えた英単語そのものを忘れてしまったという状態です。もしメタ記憶の能力がなければ「昨日英単語を覚えた」ということも思い出すことができません。
つまり、メタ記憶能力が高い人ほど、自分にどのような記憶や情報があるかを把握できるのです。しかしながら「知っているけれど思い出せない」という感覚によって精神的に疲れやすくなってしまう場合もあります。
また、記憶が薄れていくことも感じられるため、記憶を失う不安や焦燥感を感じることもあるようです。しかし、自分の記憶が薄れたと感じた時にもう一度勉強することで、記憶を失う焦燥感から逃れることができます。
一方、メタ記憶能力が低い人は記憶が薄れたことを感じにくく、能力の高い人のように忘れていく焦燥感を覚えたり、もう一度勉強しようという気持ちにならない傾向にあります。したがって、自分が何をどれだけ知っているかを把握せず、記憶は薄れていきます。しかし、忘れていくことに対する不安や焦燥感を感じにくいという長所もあります。