生薬とは、薬効のある天然の産物を使った薬のことをいいます。植物由来のものだけでなく、動物由来、菌類由来、鉱物由来のものも生薬とされます。これを煎じて飲んだり、液状にして患部に塗ったり、湿布のように皮膚に貼るなどします。世界各地の民族療法や伝統医学で使用されていますが、私たちがよく知っているハーブやスパイスなども、植物由来の生薬として使われることがあります。一般に、民間療法などで1種類のみのが処方されることもある天然由来の医薬品は「生薬」と呼ばれ、いくつかの生薬を漢方医学の理論に基づいて組み合わせ、処方したものは「漢方薬」と呼ばれています。今回の特集では、生薬・漢方薬の加工法や歴史、また、身近にある植物性の生薬を中心に、それぞれの特徴、効能などをご紹介したいと思います。
生 薬
日本の生薬は「医薬品医療機器等法という法律の下、医薬品としての「生薬製剤」と食品としての「健康食品」の2つに分けられています。アメリカでは、薬局方(UnitedStates Pharmacopoeia)に掲載されている一方、生薬から抽出された有効成分は医薬品とされていますが、生薬そのものは医薬品とされていません。そのため、一般に「薬用ハーブ(herbal medicine)」と呼ばれています。
【加工の仕方】
(不要な部分を除去) 収穫された薬草は、まず薬効成分のある部分を以外の部分を取り除きます。 全ての部分を使用する薬草はあまりありません。 (長期保存) 品質を安定させるため、天日に干すなどして乾燥させます。収穫後から薬効成分が崩れていく薬草の場合は、収穫してからすぐに熱を加え、成分を崩す原因となる酵素の働きを止めます。 (弱毒化) 毒性の強いものは、加圧、加熱などで弱毒化します。 (成分を抽出) 鉱物、化石、貝殻なども生薬として使われます。砕いたり、加熱したり、水に溶かしたりなどして、薬効成分を抽出します。
【五気と五味】
生薬には、薬性(熱寒性)を表す「五気」、
薬効のひとつである「味」を表す「五味」という2つの指標があります。
【主な生薬の効能と特徴】
★茴香(ウイキョウ) ハーブティーやスパイスとしても使われるフェンネルのこと。実を乾燥させたもの。
英語名:Fennel
五気:平 五味:辛
効能:胃炎、つわりの鎮静、胃痛、生理痛の緩和など
特徴:ウイキョウは、高さ 2メートル前後になるセリ科の多年草。茎はアスパラに似ていて、葉は細かく分かれていいます。5~6月頃、黄色の小花を多く咲かせ、全体からよい香りを放ちます。実を乾燥させたものが生薬になります。
産地:ロシア、ジョージア、アゼルバイジャン、アルメニア、トルコなど、黒海とカスピ海の間にあるコーカサス地方から地中海沿岸西側にかけての地域。日本では主に輸入されたものが使われていますが、長野県などでも栽培されています。
★甘草(カンゾウ)のど飴の成分で有名なリコリスのこと。根を乾燥させたもの。
英語名:Licorice
五気:平 五味:甘
効能:喉の痛み、胃痛の緩和など
特徴:カンゾウは、高さ40~70センチになるマメ科の多年草。根の部分は1~2メートルにもなり、根茎という根のように見える地下茎が四方に伸びていきます。6~7月頃に花を咲かせ、7~8月頃に実がなります。根や根茎を乾燥させたものが生薬となります。
産地:ウラルカンゾウは中国北部からシベリアにかけて、スペインカンゾウは中国西部から中央アジア、トルコにかけての乾燥地帯。日本で使われる甘草は、主に中国とオーストラリアから輸入したもの。
★桂皮(ケイヒ) シナモンロールでおなじみのシナモンのこと。ニッケイ属の木の樹皮を乾燥させたもの。
英語名:Cinnamon
五気:熱 五味:辛
効能:食欲贈進、胃炎、動悸、つわり、生理痛の緩和、利尿など
特徴:ケイヒは、クスノキ科のニッケイ属の木から採取されます。代表的なトンキンニッケイは高さ15メートル前後の常緑高木。葉の大きさは10〜15センチ前後で、黄緑色の小花を咲かせます。実は、大きさ約1センチの楕円型で、熟すと暗い紫色になります。
産地:トンキンニッケイは中国南部からベトナム北部、ジャワニッケイはインドネシア、マレーシア、中国南部。セイロンニッケイはスリランカ、アフリカ東部のセーシェル諸島など。