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日本と世界の民間療法 身近なものから意外なものまで

Bynikkansan

11月 22, 2019

 民間療法とは、古代から信じられている療法や、経験的に効果があるとして民間で伝えられる療法のことを言います。インドのアーユルヴェーダや中国の中医学、ドイツ発祥のホメオパシー、アフリカの呪術的療法までさまざまな民間療法がありますが、中でも身近な食べ物や飲み物を使った日本の民間療法は安全で取り入れやすく、科学的に裏付けされているものが多くあります。今回の健康特集では、風邪対策を中心に、日本と世界のさまざまな民間療法をご紹介しましょう。

 

風邪に…日本の民間療法

 

梅干 Dried Plum  

 カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛などのミネラル分が豊富。ビタミン類も含まれます。酸味成分のクエン酸とリンゴ酸は糖質の代謝を促し、疲労回復を早めます

○焼き梅干し…フライパンなどで梅干しを焼きます。

○梅醤番茶…潰した梅干におろし生姜と醤油適量を加え、煮立たせた番茶に入れます。

○生姜梅干し…梅干、生姜、黒砂糖をカップに入れ、お湯を注ぎます。

 

葛 Arrowroot 

 風邪のひき始めに効く漢方「葛根湯」の主成分である葛。どんな荒地でも育つという生命力の強い植物です。主成分はデンプンで、とろみがあるため消化しやすく、身体を温める効果もあります。

○葛湯…小鍋に水と葛粉を入れ、かき混ぜて葛粉を溶かしながら加熱。とろみがついて透明になったら火から下ろします。お好みで蜂蜜や黒砂糖、おろし生姜などを入れてもよいでしょう。

 

 

生姜 Ginger  

 殺菌作用のあるジンゲオール、食欲を増進させるシネオール、血行を促進するショウガオールなどが含まれます。

○カップにすり下ろしたショウガ、蜂蜜、黒砂糖を加え、お湯を注ぎます。

 

 

 

 

大根 Japanese White Radish  

 消化酵素のジアスターゼ、抗酸化作用があるビタミンCなどが含まれます。ビタミンCは皮の部分により多く含有。加熱すると栄養分が損なわれるため、生のまま食べるのがベストです。

○大根の蜂蜜漬け…皮付きの大根を1cm角に切り、蜂蜜と一緒に瓶に入れて冷蔵庫へ。1〜2日漬けた後、上澄み部分をそのまま飲んだり、漬かった大根を食べたりします。特に咳や喉の痛みのある風邪によいと言われています。

 

 

卵と日本酒 Eggs and Sake  

 完全栄養食と言われる卵には、たんぱく質、ビタミンA、B12、D、E、葉酸、ビオチン、鉄などが含まれます。日本酒には必須アミノ酸や、抗酸化作用のあるフェルラ酸、血行を促進するアデノシンなどが含まれます。

○卵酒…日本酒180mlに卵1個を入れて火にかけます。卵が半熟になったら、好みで蜂蜜や黒砂糖を入れます。

 

 

 

ニンニク Garlic  

 免疫力を高める「ジアリルトリスルフィド」や「アホエン」、疲労回復を促す「アリアチミン」が含まれます。アリシンも豊富。

○焼きニンニク…ニンニクを皮のまま焼き、食べるときは皮を剥きます。

 

 

 

ネギ Green Onion  

 ビタミンCのほか、βカロテン(体内で目や皮膚の粘膜を守るビタミンAに変化)、緑の部分にはカルシウムも含まれます。ネギ独特の香りの元、アリシンはビタミンB1、B2の吸収を促し、免疫力を高めると言われています。

○ネギとニンニクのスープ…ネギのみじん切り、すり下ろしたニンニク、味噌をカップに入れ、お湯を注ぎます。

 

 

 

ミカン Tangerine  

 豊富なビタミンC(100g中35mg)や紫外線から肌や目を守るβクリプトキサンチンが含まれています。

○焼きミカン…ミカンを皮が黒くなるまで焼いて食べます。

○蜂蜜ミカン…しぼり汁に熱湯を注ぎ、お好みで黒砂糖や蜂蜜を入れます。

○ミカン湯…皮を湯船に入れて入浴します。

 

 

スイカズラ Japanese Honeysuckle  

 スイカズラの花は「金銀花(キンギカ)」葉や茎は「忍冬(ニンドウ)」という生薬として使われています。痛みや熱を抑えるタンニン、利尿効果のあるカリウムなどがカリウム、抗酸化作用のあるルテオリンなど、様々な栄養素が含まれています。

○スイカズラ茶…乾燥したスイカズラの花、葉、茎を水を張った小鍋に入れ、静かに沸騰させながら約20分煎じたものを1日数回に分けて飲みます。喉の痛みがある時は、うがいしながら飲み下すとよいでしょう。喉の痛み、発熱を伴う風邪、風邪のひき始めに効果があると言われています。

 

タンポポ Dandelion  

 タンポポの根は「蒲公英根(ほこうえいこん)」という漢方薬でもあります。抗酸化作用のあるクロロゲン化合物(酸味や渋みの元でポリフェノールの一種)、カルシウム、鉄分、カリウム、ビタミンA、Kなどが含まれます。

○タンポポ茶…水を張った小鍋にタンポポの根を入れ、静かに沸騰させせながら20分煎じたものを1日数回に分けて飲みます。風邪による熱や喉の痛みに効果があると言われています。

 

 

 

 

世界各国の風邪対策

 

【イラン】  カブとスイートレモンを食べる。

【エジプト】  蜂蜜レモンを飲む。蜂蜜にはビタミン類、ミネラル類、アミノ酸、酵素など様々な栄養素が含まれています。

【ギリシャ】 お茶にコーラを入れて飲む。お茶に含まれるポリフェノールには抗酸化作用があり、コーラに含まれるカフェインには頭痛緩和作用、炭酸には食欲増進作用があります。

【チェコ】 カモミールティーを飲む。

                                        【フィリピン】 シークワーサージュースを飲む。シークワーサーにはビタミンCの他、毛細血管を健康に保つヘスペリジン、クエン酸などが含まれています。

                                        【マレーシア】 にんにくや唐辛子を食べる。

                                        【ロシア】 温めた牛乳にハチミツを入れて飲む。

 

その他の症状

暑さ負け Heat Loss

○ゴーヤー茶(bitter melon tea)を飲む  ゴーヤーの苦み成分で20種類以上のアミノ酸から成る「モモルデシン」には、整腸作用、胃腸の粘膜の保護、血糖値と血圧を下げる効果などがあります。-ビタミンC、鉄分も豊富に含まれています。

 

 

 

口内炎 Stomatitis

○梅干しの果肉を患部に貼り付ける  梅干しに多く含まれるクエン酸が口内炎の原因となる細菌を殺菌する効果が期待できます。

 

軽度の気管支炎や風邪 Bronchitis or Cold

○粉末からしと小麦粉を1:1の割合で混ぜて湯で溶かす。それをガーゼに延ばして胸一面に貼り、15〜20分後に取り除く  からしには、血行促進や殺菌作用などが期待されるシグニリンという成分が含まれます。漢方では「芥子(ガイシ)」と呼ばれています。

 

軽度の水虫 Athlete’s foot

○患部にお湯をかけながら洗い、日光に当てて乾かす  お湯と日光による殺菌効果が期待されます。

 

痔 Hemorrhoid

○大根おろしの絞り汁をガーゼに浸し、患部に貼る  抗酸化作用のある大根の辛味成分、イソチアネートとビタミンCが痔の症状を緩和すると考えられています。

 

腋臭 Underarm Odor

○焼いたミョウバンを脇にすり込む  天然のミョウバンは白礬(はくばん)とも呼ばれます。収れん作用と殺菌作用があることから、古くから腋臭などの治療にや食品の保存材として使われてきました。英語では“Alum”といいます。

 

 

世界の民間療法

 

アートセラピー Arttherapy (カナダ)

 カナダのモントリオールでは、フランコフォン医師会とモントリオール美術館による公式な治療法、アートセラピーが2018年11月から実施されています。これは、精神疾患、高血圧、糖尿病などの患者を対象に、医師が治療の一環として「芸術館賞」を処方することができるというもの。処方された患者は、1年に50回までモントリオール美術館に無料で入館できるようになります。

 芸術に触れることが人々の健康によい影響を及ぼすという研究結果が多々あることを知ったモントリオール美術館が「当館で患者の気分を改善し、幸福感を高めることができれば」と医師会に相談し、実現に至りました。

 

 

ハロセラピー Halotherapy (東欧、ロシア)

サリナ・トゥルダ塩鉱山跡(ルーマニア)

 

 

 ルーマニアには古代から岩塩の産地として知られていた「サリナ・トゥルダ(Salina Turda)」という塩鉱山がありました。現在は廃坑になりましたが、鉱山跡の大きな穴と坑道は、現在「ハロセラピー」という代替医療法施設として再利用されています。岩塩洞窟に入ることで喘息や気管支炎などの呼吸器疾患の治療を試みるという療法で、岩塩洞窟が多い東ヨーロッパやロシアで盛んに行われています。

 

ハロセラピーを受ける人々(スロバキア)

 19世紀中頃、ポーランドのボッコウスキーという医者が、岩塩鉱山の労働者に風邪、呼吸器疾患、肺疾患にかかる人がほとんどいないことに気づき、塩鉱山から噴出するエアゾールに抗菌性や抗炎症性があるのではないかと考えました。実際、岩塩鉱山の坑夫たちは何百年も前から岩塩に囲まれた環境が健康によいことを知っていて、利用していたといいます。

 

 

 

 

包丁マッサージ Knife Massage (台湾)

 

 刃を落とした中華包丁2本を使い、身体に刺激を与える中医学の治療の1つです。古代中国の周時代(前1046 –前256)に僧侶が始めた「刀療(とうりょう)」が起源と言われています。

 

 現在、台湾で気軽に受けることができる包丁マッサージは、完全に裸になった状態で行われます。マッサージ台にうつ伏せになって、全身にタオルをかけます。薄荷(ハッカ)の軟膏を首、手首、足首に塗り、体をほぐしてから包丁で叩くようにマッサージするというもの。普通のマッサージでは届かない身体の深部に刺激を与えると考えられています。

 

気功 Qigong (中国)

 

 伝統中国医学療法の1つ、気功の「気」の定義は、紀元前8世紀から紀元前5世紀頃の春秋時代に成立した「陰陽五行説」に基づきます。陰陽とは、万物は全て相対する2つのエネルギーで構成されているという考え方。五行説は、万物は水・木・火・土・金の五元素の性質を持つという考え方です。

 

 気功には、身体の経絡を巡るとされる「気」を循環させ、その質やコントロール能力を高める「内気功」と、その人に必要な「良い気」を体内に入れ、不調の原因となっている「悪い気」を体外に排出するという「外気功」があります。内気功は、身体を動かして気を循環させる「動功」と、身体を動かさずに体内の気を循環させる「静功」に分けられます。

 

 また、「法術」と呼ばれる気功法は、「気の情報」を読み取り、変化させることで病気を治癒したり、心身の問題解決を行うというもので、古代の道教や仏教などでも用いられていました。中国にはさまざまな気功法があり、呼吸、体操、瞑想、イメージトレーニング、それらを併せたものなど、その種類は数千に及ぶと言われています。

 

よもぎ蒸し Vaginal Steam (韓国

 

 薬草を煎じ、その蒸気を下半身から全身に浴びて吸収するという韓国の民間療法で、月経不順や更年期障害など、女性特有の不調や疾患に効果があると言われています。

 

 朝鮮時代の医学書『東医宝鑑』(1613年発刊)には「よもぎは体を温めて冷えを追い出す」と記されており、その当時は、薬草を燃やし、その煙を浴びる「焼烟薫之」という方法で行われていたといいます。使われる薬草は、蓬生(ヨモギ)、 黄芩(オウゴン)、益母草(メハジキ)、黒豆、陳皮、甘草、薄荷、荊芥(レンギョウ)、蒲公英(タンポポ)、蛇床子(ジャショウシ)、川芎(センキュウ)、三白草(サンパクソウ)、桑の葉、苦参(クララ)、九節草(チョウセンノギク)など。その人の好み、症状、体質によって薬草の種類が変わります。

 

 

昔、聞いたことがあるかも? 避けた方がよい民間療法

 

×蜂に刺されたら患部に尿をかけて毒を中和する

 排泄直後の尿には微量のアンモニアしか含まれていない上、アンモニアに毒の中和作用はありません。蜂に刺されてしまったら、尖っていないもので針などを取り除いて水で洗い、軟膏を塗布した上、あれば抗ヒスタミン剤を経口投与し、痛みや痒みを抑えます。患部は心臓より高くして安静にしましょう。

 

×突き指をした時はその指を強く引っ張る

 指を強く引っ張ると、逆に神経を傷つけたり脱臼したりする恐れがあります。突き指をしてしまったら、テープなどで患部を固定し、冷やしましょう。

 

×毒虫に刺されたり、毒蛇に噛まれた際は口で毒を吸い出す

 口内菌で傷口が汚染されたり、処置する人の口の粘膜から毒が吸収される恐れがあるため、避けるべき方法です。正しい処置は次の通り。  まず傷口から心臓に近い部分を布などで軽く縛り、安静にして毒が全身に回るのを遅らせます。そして、傷口から血を絞り出すようにして毒を体外に出し、水があれば洗いながら血を絞り出します。

 

 

民間療法のバイブル 『家庭に於ける実際的看護の秘訣』 (通称「赤本」)

 

 通称『赤本』と呼ばれる日本の民間療法が記された『家庭に於ける実際的看護の秘訣』をご存知でしょうか。今から約100年前に発刊され、累計発行数は実に2千万部。1600回以上の増版を重ねているという超ロングセラーです。

 著者は、福井県出身のの元海軍看護特務大尉、築田多吉(つくだ・たきち=1872〜1958)で、紹介している数多のの民間療法は自ら実践してみて効果のあったものとされています。35年間、各地の海軍病院に勤務した築田は、通常の治療を施すかたわら、各地方に伝わる民間療法をまとめていました。それを編集したのが1925(大正14)年に発刊された『赤本』でした。

 最初は海軍関係者だけに配る予定で1万部が刷られたのですが、評判が広がり、関係者以外からの問い合わせが殺到したため、増刷され続けたと言います。昭和30年代頃には、全国の家庭に常備されていたといいます。

 最新の赤本は1621版で2007年に発刊されたもの。『赤本』という名は、著者が「生命の源は血液であり、血流を良くすることが健康維持に重要」と考え、表紙を赤にしたことが由来でした。

 

※記事中で紹介した療法は医学的根拠がないものもあり、疾病の改善を保証するものではありません。

 


【参考URL】

・国立国会図書館 https://www.ndl.go.jp

・福井新聞「民間医学のバイブル『赤本』とは」https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/301736

・橋本壽夫(2010)「欧米で普及するハロセラピー 塩の粒子で治療効果を発揮」https://hts-saltworld.sakura.ne.jp/salt6/salt6-10-08.html

・Haidan Yuan. Qianqian Ma. Li Ye. Guangchun Piao. (2016) “The Traditional Medicine and Modern Medicine from Natural Products https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6273146/“

・The Montreal Museum of Fine Arts https://www.mbam.qc.ca ・Salina Turda https://salinaturda.eu/?lang=en

・Wikipedia “Halotherapy” https://en.wikipedia.org/wiki/Halotherapy ・Wikipedia「民間療法」https://ja.wikipedia.org/wiki/民間療法

 

 

(日刊サン 2019.11.19)