日刊サンWEB

過去記事サイト

和製スーパーフード 大豆の健康効果と 豆知識

Bynikkansan

4月 18, 2018

東アジアを中心に、古代から栽培され、食べられてきた大豆。数千年も食べられ続けている大豆には、驚くほどに豊富な栄養素が含まれています。納豆、豆腐、味噌、醤油、油揚げなど、日本人の食には大豆食品が欠かせませんが、この大豆を取り入れた食生活が、日本が長寿国である理由の1つと言われています。今回の健康特集では、大豆の栄養素や健康効果を中心に、知って楽しい大豆の歴史や豆知識などをご紹介したいと思います。

 

●●●●●● 健康に役立つ栄養たっぷりの大豆 ●●●●●●

 

全体の約3割を占める大豆のタンパク質には、必須アミノ酸(※)がバランスよく含まれ、血中コレステロールの低下や脂肪の燃焼などを促す効果があると言われています。また、良質の脂質、各種ビタミンやミネラル類などさまざまな栄養素が含まれているため、大豆は、アサイーやチアシードのような「スーパーフード」の1つに数えられています。

※必須アミノ酸とは、動物の生命維持に必要なアミノ酸のうち、体内で合成されにくいもののことで、人の必須アミノ酸としては以下の9種類があげられます。

必須アミノ酸 期待される効果
イソロイシン 疲労の予防と回復
トレオニン 新陳代謝を促す、脂肪肝の予防
トリプトファン 脳の活性化、精神安定、安眠
バリン 疲労の予防と回復
ヒスチジン 新陳代謝を促す
フェニルアラニン 脳の活性化、精神安定
メチオニン 脂肪の燃焼
リシン 脂肪の燃焼
ロイシン 疲労の予防と回復

 

【「デザイナーフーズ」の1つ】

 

1990年、アメリカ国立がん研究所(National Cancer Institute)で「デザイナーフーズ・プログラム」を立ち上げられました。このプログラムは、がんの抑制効果のある植物性食品を摂ることで予防を図るというもので、約40種類の食品が推奨されています。推奨された食品群は、抑制効果の高い順にピラミッド型に分けられていますが、大豆はその1番上の群に位置付けられています。2006年、アメリカの健康専門月刊誌『ヘルス』に発表された「世界の5大健康食品」にも大豆が含まれており、その他にスペインのオリーブ油、ギリシャのヨーグルト、インドのダール、韓国のキムチが選ばれています。

 

 

●●●●●● 大豆に含まれる栄養素 ●●●●●●

 

 

 

 

 

生薬としての大豆

 

MEMO

蒸した黒大豆を発酵させ、乾燥したものは、香豉(こうし)という生薬になります。これを煎じて飲むことで、発汗を促し、胃もたれ、消化不良、高血圧、動脈硬化、肥満、心臓病、疲労などの症状を改善すると言われています。香豉を含む漢方薬として、不眠症、口内炎、胃炎に効くと言われる梔子豉湯(しししとう)があります。

 

 

●●●●●● 大豆を摂る際の注意 ●●●●●●

 

遺伝子組み換え大豆を避けましょう大豆や大豆製品のパッケージには、「遺伝子組み換えではない」(英語では「Non GMO」)と表示されていることがあります。遺伝子組み換え大豆とは、具体的にどんなものなのでしょうか。

 

【除草剤や害虫に強い】

遺伝子組み換え大豆とは、遺伝子を組み替えてつくられた除草剤や害虫に強い大豆のことです。除草剤耐性品種は、除草剤を散布しても雑草だけが枯れて大豆は生き残るというもので、ミズーリ州に本社がある多国籍バイオ化学メーカー、モンサント社の「ラウンドアップレディ」という種類の大豆が有名です。また、バチルス・チューリンゲンシスという微生物の遺伝子を組み込んだ害虫抵抗性品種は、害虫が葉を食べると虫の消化管が破壊されて殺虫されるというものです。

 

【Non GMO食品を選びましょう】  

いずれも大量生産を目的として作られたものですが、遺伝子組み換え技術は大変不安定なもので、偶発的に健康に害を及ぼすことが考えられるため、さまざまな食品・健康機関が摂取を避けるよう注意を呼びかけています。遺伝子組み換え食品は、英語でGMO「Genetically Modified Orgasnisms」と言います。大豆やトウモロコシは、パッケージにNon GMOと表記されたものを選ぶようにしましょう。

 

【大豆イソフラボン】  

大豆イソフラボンには、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があることから、閉経後の女性のホットフラッシュや月経前症候群(PMS)の諸症状を緩和すると言われています。一方で、乳児、妊娠中・授乳中の女性、女性特有のがん発症リスクが高い方は大量摂取を避けた方がよいと言われています。厚生労働省の「統合医療』情報発信サイト(ejim. ncss.go.jp)および内閣府食品安全委員会(fsc.go.jp)では、上記に該当する人の大豆の摂取には注意をが必要とし、医療機関などへの相談を推奨しています。 また、妊娠の有無や年齢などに関わらず、大豆イソフラボンの過剰摂取によって引き起こされると言われている主な健康被害は以下の通りです。

●性ホルモンのバランスを崩すことによる体重増加や気分の落ち込み

●前立腺がん、精子の減少(男性)

●甲状腺ホルモンの分泌を抑えることによる甲状腺機能低下症

●女性特有のがん発症を誘発する  

食品安全委員会では、大豆は健康食品であるとしながらも、大豆イソフラボンの1日の摂取目安量を70〜75mgを超えた量を長期間にわたって摂取しないよう呼びかけています。

 

【大豆レシチン】  

レシチンは細胞膜の主成分で、脳や身体の神経組織を構成する大事な役目を担っています。その一方で、大量に摂取すると、毛細血管の血行が良くなりすぎて皮膚がかゆくなったり、腸の活動が活発になることで吐き気や腹痛が起こることもあります。レシチンの1日の摂取量について、厚生労働省の食事摂取基準2015では定められていませんが、サプリメントのラベルなどに記載されている平均目安量は1日に1000〜5000mgとなっています。できるだけ上限量を超えないように摂取しましょう。

 

●●●●●● 大豆食品のいろいろ ●●●●●●

 

大豆はたくさんの種類があり、色も黄、白、緑、黒などさまざまです。日本では、用途に合わせて約300種類の銘柄が栽培されており、黄大豆が一般的です。大粒種は煮豆などの料理に、種 は 醤油、豆腐、味噌などの加工食品に、小粒種 は主に納豆に使われます。

甘納豆•••砂糖と一緒に煮詰めた後、さらに砂糖を加えて乾燥させたもの。主に黒大豆が使われる

厚揚げ•••木綿豆腐を水切りして揚げたもの。中心に豆腐の状態が残っている。

油揚げ•••薄切りにした木綿豆腐を水切りして揚げたもの。 煎り豆 煎った大豆。節分の豆でお馴染み

打豆(うちまめ)•••大豆を平たく潰して乾燥させたもの。福井県などの日本海側で、保存食として使われる。煮え上がりが早い。

枝豆•••大豆が青いうちに収穫したもの。

おから•••豆乳を作った後の搾りかす。卯の花とも言う。

がんもどき•••水分を絞った豆腐に具材を混ぜて揚げたもの。

きなこ•••煎った大豆を粉にしたもの。

高野豆腐•••豆腐を凍らせた後で解凍し、水分を取ったもの。凍り豆腐とも言う。

呉•••水に浸けた大豆をすり潰したしたもの。これを味噌汁に入れたものが呉汁。

ごどうふ•••豆乳に葛粉や澱粉を加え、加熱して固めたもの。佐賀県、長崎県の郷土食。

醤油•••脂肪分を取った大豆を麹菌で発酵させた調味料。

ずんだ•••未成熟の青い大豆(枝豆)を砕き、餡にしたもの。

大豆油•••大豆から作られる植物油。サラダ油、マーガリン、マヨネーズなどに使われる。

大豆粉•••熱を加えていない乾燥大豆を粉末にしたもの。低糖質食品の材料として使われる。

豆腐•••豆乳をにがりで固めたもの。にがりとは、海水から食塩(塩化ナトリウム)を作った後に残るミネラル分。主成分は塩化マグネシウムで、他にナトリウム、カリウムを含む。苦い味はマグネシウムイオンによるもの。

豆乳•••大豆を水に浸して加熱し、砕いて絞ったもの。

納豆•••蒸して煮た大豆を納豆菌で発酵させたもの。

味噌•••蒸して煮た大豆を麹菌で発酵させたもの。

もやし•••大豆を暗い場所で発芽させたもの。

煮豆•••大豆を煮込んだ料理。

湯葉•••豆乳を温めると浮いてくる皮膜をすくったもの。

豆腐餻(とうふよう)•••沖縄の島豆腐を米麹、紅麹、泡盛で発酵させたもの。中国発祥。

沖縄の豆腐餻(wikipedia)

 

日本以外で食べられている大豆食品

キネマ•••シダの葉に付いている納豆菌(枯草菌)を利用して作る納豆。ヒマラヤ山脈周辺で食されており、シダの代わりにネパールの麹「マーチャ」で作られることもある。

ケチャップマニス•••大豆と小麦を発酵させ、パームシュガー、塩などを加えて作るインドネシアの醬油。サテ、ナシゴレン、ミーゴレンなどに使われる。

臭豆腐•••豆腐の発酵食品。

トゥア・ナオ•••納豆をペースト状にして煎餅のように広げ、乾燥させたもの。タイ北部、ラオスの伝統的な食品。

豆汁(とうじゅう)•••豆乳を乳酸発酵させたもの。北京の伝統料理。

豆豉(とうち)•••一種の納豆を乾燥させて作る中華食材。豆豉醬の材料にもなる。

トーファーキー•••味と見た目を七面鳥の丸焼きに似せて作った豆腐。オレゴン州にあるタートル・アイランド・フーズの登録商標になっている。

豆腐干•••固めの豆腐を圧縮し、水分を除いたもの。とても硬い。中華料理で使われる。

腐乳•••豆腐に麹を付け、塩水の中で発酵させたもの。中国の伝統的保存食。調味料としても使う。

テンペ•••大豆をテンペ菌(クモノスカビ)で発酵させたもの、インドネシアの食品。

テンペを使ったサラダ(Pixabay.com )

 

•••••• 大豆栽培の歴史 ••••••

 

大豆の原産地は東アジアで、その原種は日本にも自生しているツルマメと考えられています。

【中国】  

大豆について記録された世界最古の書物は中国の医薬書『神農本草経』で、大豆については紀元前2800年頃に書かれたと言われています。黒竜江省や吉林省などの遺跡からは紀元前1000年頃の炭化した大豆が発見されており、また、周の時代(前1046〜前256年)の『逸周書(いつゆうしょ)』、前漢武帝の時代(前141年〜前87年)の『史記』にも大豆についての記述が見られます。

 

【日本】

縄文時代中期(3400年前〜)最近まで、日本の遺跡で出土した大豆で最古とされていたのは、弥生時代前期のものとみられる炭化した4粒の大豆でした。これらは、1972年に行われた山陽新幹線の工事中、山口県宮原遺跡で発見されています。それから35年後の2007年、山梨県北杜市にある酒呑場(さけのみば)遺跡から縄文時代中期の井戸尻式土器が出土したのですが、その取っ手からは大豆の圧痕(練り込んだ跡)が発見されました。これにより、縄文時代中期(約5500~4500年前)に日本の中部地方から西関東で大豆の栽培が始められ、その後西日本へ拡散していったことが明らかになりました。弥生時代には稲作を中心とした農耕文化が発展しましたが、この頃の人々の食生活を支えていたのは、米と大豆でした。

 

飛鳥時代(592年〜)  

奈良時代に入ると中国との交易が盛んになり、仏教と共に味噌、醤油など、大豆の加工品や加工方法が伝わりました。日本最古の歴史書『古事記』にも「豆」という字が記されています。当時大豆は珍しいものだったため、一般庶民には普及していませんでした。

 

鎌倉時代(1185〜)  

日本で大豆の栽培が普及したのは鎌倉時代頃と言われています。仏教が広まり、僧侶たちは肉食が厳しく禁じられていたため、仏教寺院を中心に多くの大豆料理が考案されるようになります。また、武士たちが戦の際に持っていく兵糧として味噌が使われていました。  当時、味噌は調味料であり、貴重なたんぱく源でもありました。保存が効く栄養食だった味噌は、干したり焼いたりして携帯しやすく加工され、戦場に持って行かれました。

 

江戸時代(1603〜)

江戸時代に入ると、農作物に関する多くの書物の中に大豆についての記述が見られるようになります。武士たちの兵糧、味噌も庶民に広まり、各家で自家製造されるようになりました。豆腐も徐々に広まっていったのですが、江戸時代中頃までは、村祭り、お盆、結婚式などで「ハレの日」の特別なご馳走として食べられていました。また、仙台藩主伊達政宗は、戦の際の味噌を自給できるよう城内に味噌の工場を作ったのですが、これが仙台味噌の起源になったと言われています。

 

(日刊サン 2018.04.18)