ウォーキングは、体への負荷が少なく、道具が要らず、場所もあまり選ばない、最も手軽に始められる有酸素運動です。日本でウォーキングをする人は約4000万人に上り、運動人口が最も多いスポーツとなっています。ウォーキングは、私たちの健康や美容に役立つ効能や効果が入っている宝箱のようなスポーツです。さて、宝箱には一体どんな効果が入っているのでしょうか?
体の7割以上の筋肉が使われる全身運動
私たちの体全体の筋肉の約7割は、下半身にあります。ウォーキングをする時は、大腿四頭筋(大腿直筋・広筋)、大腿二頭筋、前脛骨筋、下腿三頭筋(腓腹筋、ヒラメ筋)など、大きな筋肉を使いながら、腹筋や腰、腕の筋肉も使っています。重力に耐えつつ、左右の脚で片方ずつ体重を支え、脚を曲げ伸ばしながら体を行きたい方向へ運んでいるのですから、歩くことは、全身の筋肉を駆使して行う大きな動きなのです。
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ウォーキングの健康効果
冷え性改善や持久力の向上
ウォーキングによって心拍数が上がると、より多くの酸素が体内に取り込まれるため、ウォーキングを続けることによって、心肺機能を高めることができます。心肺機能が高まると、血液の循環がよくなり、基礎体温が上がり、新陳代謝が活発になります。それによって、冷え性の改善、持久力の向上、動脈硬化の予防、加齢による心臓や肺の衰えを遅らせるなど、様々な健康効果が期待できます。
強い骨を作る
骨はカルシウムの摂取と共に、刺激を与えることでも強化されます。ウォーキングをすると、筋肉と共に骨にも刺激を与えられるので、骨粗しょう症や骨の老化防止など、骨の健康に効果が期待できます。また、日光を浴びると皮膚でビタミンDが作られます。ビタミンDはカルシウムの吸収を助けるため、結果的に骨を強くする効果が得られます。
ダイエットと脂肪の燃焼
体重60kgの人が時速4〜5kmでウォーキングをした場合、1時間で約200kcal、1万歩で約350kcalが消費されます。脂肪1gの燃焼に必要なカロリーは9kcal。1日1万歩のウォーキングを3週間続けると7350kcalが消費されるので、1kg強の脂肪が燃焼される計算になります。また、心肺機能が高まることで脂肪をさらに効率よく燃焼させる効果もあり、歩く時に正しい姿勢と腹式呼吸を意識すれば、より多くのカロリーを消費することができます。血液中の中性脂肪が燃焼されることで、高血圧の改善、血中脂質の低下、肝機能を改善するなどの効果も期待できます。1日30分のウォーキングを習慣にすると、脳卒中、糖尿病、心疾患などの発症が30~40%減少するという研究結果もあります。
心臓の健康を保つ【第2の心臓・足】
心臓は、酸素を多く含んだ血液を、動脈を通して全身に送り出し、供給する臓器です。全身を巡って酸素が少なくなった血液は、静脈から回収されます。重力によって、心臓より上にある身体の部分からの血液は、心臓へ返って来やすいですが、心臓より下、特に足先の血液は、重力に逆らいながら心臓に戻さなくてはなりません。これを心臓だけでやろうとすると心臓への負担が大きくなりますが、ウォーキングは、その負担を軽くする効果があります。ウォーキングをして足を動かすと、筋肉が伸び縮みし、隣にある血管をマッサージするように押したり引いたりして、ポンプのような役割をします。これで、血液の巡りがよくなり、心臓への負担が軽減します。足の筋肉が血管を搾り、搾乳機のような働きをするため、「ミルキングアクション」と呼ばれます。このミルキングアクションが心臓の負担を軽くするので、足は「第2の心臓」と呼ばれているのです。
https://en.m.wikipedia.org/wiki/Heart#/
【心筋のエネルギー源、乳酸の安定供給】
心臓の筋肉のエネルギー源となる乳酸は、運動することによって作られます。乳酸を安定的に供給するには、ハードな運動よりも、ウォーキングのように適度な運動が効果的です。これにより、心臓病の発症リスクの低下も期待されます。
寿命を延ばす
継続的な有酸素運動は全身のアンチエイジングに効果的です。結果的に寿命を延ばす可能性もあります。2015年のヨーロッパ心臓学会では、1日に25分間、ウォーキングなどの適度な運動を毎日続けると、寿命が最大で7年延びる可能性があるという研究結果が発表されました。イギリスのセント・ジョージズ大学に所属する心臓病専門医、サンジェイ・シャルマ教授は、自身のウォーキングと遺伝子の関係についての研究結果から「年齢や身体の状態に関わらず、運動は老若男女全ての人に恩恵があります。20〜25分のウォーキングを6ヶ月以上毎日行うことで、寿命に関わる遺伝子に変化が起こり、全身の老化を遅らせる可能性があります」と述べています。また、最近の運動生理学では「歩くのが速い人は、歩くのが遅い人よりも寿命が長い」という研究結果も出ています。
脳を活性化し、うつ病や認知症を予防
ウォーキングには脳を活性化させる効果も期待できます。週3回、40分のウォーキングを1年間行なうと、脳の記憶を司る「海馬」が約2%増量するという研究結果もあります。また、アメリカのアルツハイマー協会は「脳を守る10の方法」のひとつに「1日30分以上の散歩」をあげています。1日20~30分のウォーキングを続けると、快楽ホルモンのβエンドルフィンやセロトニンが分泌されるため、うつ病の予防にも効果があります。
脳活性化!Twitter@noukasseika
ウォーキングをする前に
健康的なウォーキングの時間と距離
厚生労働省による「健康づくりのための身体活動基準2013」では、18~65才の人では、歩行またはそれと同等以上の強さの運動を毎日1時間以上行うことが望ましいとしています。
同じく「健康日本21」では、健康のための1日の目標歩数は、男性9000歩、女性8500歩、65歳以上の場合は、男性7000歩、女性6000歩としています。歩く距離は「歩幅」×「歩数」で、歩幅は歩く人の歩行速度と身長で割り出すことが出来ます。普通に歩く場合は時速4.5km、速く歩く場合は時速5kmとすると、歩幅の目安の式は以下のようになります。
★普通に歩く場合 → 身長×0.45
★速く歩く場合 → 身長×0.50
したがって、身長165cmの人が普通に歩いた場合、歩幅は74.25cmとなり、74.25×8500で、8500歩歩くと、距離は約6.3kmとなります。
ウォーキングの前後に水を飲み、ストレッチをする
ウォーキングを始める30分前に400~500ml、ウォーキング後は200〜300mlの水を飲みましょう。ウォーキングには脱水作用があるため、前後のアルコール摂取は避けましょう。また、ウォーキングの前後には、下半身を中心に、軽くストレッチをして身体をほぐしてみましょう。
効果的な歩き方
効果的な歩き方を実践するため、文章を参考にウォーキングの姿勢を取ってみながら読むことをお勧めします。
「アクティブかむかむウォーキング」 https://www.comewalk.jp/active/index.html
基本の姿勢
あごを少し引いて、目線は十数メートル先へ。肩と腕の力を抜き、手のひらは軽く握ります。腕はL字型に曲げ、足の歩みに合わせて大きめに振ります。背筋は伸ばしながら、軽く前傾する姿勢をとります。骨盤周りをひねりながら前へ進むイメージで歩きましょう。
歩幅は心持ち広く
ウォーキングの時、心持ち歩幅を広くすると身体を大きく動かすことができます。すると、使われる筋肉が伸びて姿勢が歪みにくくなり、運動効果が高くなります。ウォーキングの歩幅の目安は前述の計算式を参考にしてください。
脚を前に運ぶ時は膝を伸ばし、着地はかかとから
歩幅を広くし、足をかかとから着地させることで、よい姿勢をキープしながら歩くことができます。膝を伸ばしながら脚を前に出すと、自然とかかとからの着地ができます。
踏み込む時は足裏で地面をつかむように
足を踏み込むときは、着地したかかとから爪先の順に、足裏で地面をつかむようなイメージで。
踏み切る時は足指を開いて地面を蹴るように
地面を踏み切る時は、足指を開くイメージで。足を地面から離す時、地面を蹴るようにすると、使われる筋肉の範囲が広くなり、効率よく鍛えられます。
地面からの反発力を腰で受ける
踏み切る時に足指を開き、地面をけるようにすると、地面からの反発力が足へ伝わります。その際、脚を伸ばしたままにして腰に反発力が伝わるようにすると、腰が後ろから前へ押されるので、背筋を伸ばしたまま、上半身を前に運べます。
服装と靴
ウォーキングの服装は ①汗を吸う吸水性 ②吸った汗で服が冷えるのを防ぐ速乾性 ③体温をこもらせないための通気性に優れたものが理想です。服の生地は、この3つの機能に優れた「ポリエステル」がベストです。パンツの下には、レギンスやタイツの着用がお勧めです。レギンスは、適度な圧力で筋肉のぶれを防ぎ、足の負荷が軽減される上、太ももやふくらはぎの筋肉痛を防止します。また、血流がよくなることで、運動パフォーマンスも向上します。
靴は、ウォーキング専用シューズがお勧めです。靴底が厚くてやや重く、耐久性と安定性が高いことが特徴です。ウォーキングシューズは、歩く時の足の動きに合わせたデザインで、負荷が少なく疲れにくいように作られています。特にかかとのクッション性が高く、足を自然な着地へ運ぶ設計となっています。
ウォーキングの豆知識
「歩く」と「走る」の違い
宙に浮く瞬間がある状態が「走る」
どちらか片足が常に地面に着いている状態が「歩く」で、両足が宙に浮く瞬間がある状態が「走る」です。競歩には「常にどちらかの足が地面に接していること」「前脚は着地から地面と垂直になるまで膝を伸ばすこと」というルールがあります。競歩の最高速度は時速14㎞にも達します。ランニングでは体重の3倍の衝撃が、ウォーキングでは体重の約1.5倍の衝撃がかかります。速度が速くなると、歩くより走るほうが疲れにくくなります。これは、秒速2mの場合、歩くより走るほうが脚の主要な筋肉をうまく使用でき、身体のエネルギー使用効率が向上するためです。
江戸時代の平均歩数は1日3万歩
歌川広重「日本橋雪晴図」
江戸時代の庶民は、1日平均3万歩を歩いていました。厚生労働省の「国民健康・栄養調査」(2015年)によると、現代の成人の1日の平均歩数は男性7194歩、女性6227歩ですから、江戸時代の人がいかに多く歩いたかが伺えます。
歩数計
歩数計(万歩計)は、ヨーロッパで発明されました。レオナルド・ダ・ビンチのアイデアを元に、1780年、スイスの時計師・アブラアン=ルイ・ペルレが実用化しました。日本では、江戸時代中期、発明家の平賀源内(1728〜1870)がヨーロッパ製の歩数計を改良し、腰にぶら下げるタイプの「量程器」を作りました。江戸時代後期になると、商人で測量家の伊能忠敬(1745〜1818)が「量程車」という計測器に「歩度計」という歩数計を用いて全国を歩き、日本地図を作成しました。現在、歩数計の代名詞になっている「万歩計」は、山佐時計計器株式会社の登録商標です。
ギリシャ哲学とウォーキング
古代ギリシャ医学の祖、ヒポクラテス(紀元前460〜370)は「歩くことが最良の薬」という言葉を残しました。また、アリストテレス(紀元前384〜322)は、回廊を歩きながら講義をし、このスタイルを倣った哲学者グループは「逍遥学派」と呼ばれました。これは、アリストテレスの師であるプラトン(紀元前427〜347)が、オリーブの樹の下を歩きながら講義した習慣を受け継いだものでした。また、プラトンの師であるソクラテス(紀元前469〜399)も、遊歩しながら問答をしたことで知られています。
世界の偉人とウォーキング
ドイツの作曲家、ベートーべン(1770〜1827)は散歩好きでした。散歩の時は五線譜と筆記用具を持っていき、音楽のアイデアがわくと、歩きながらメモをとりました。また、イギリスの自然科学者、ダーウィン(1809〜1882)は、自宅に考え事をするための散歩道を作り、1日に何度も散歩をしました。散歩道を一周するごとに落ちている石の数を数え、考え事のの難易度を石の数で表しました。イギリスの小説家、ディケンズ(1812〜1870)は、1日になんと48kmも歩き、歩きながら名作の数々を生み出しました。
ウィーン郊外にあるベートーベンの遊歩道 https://pianotohikouki.com
参考文献:『知識ゼロからのウォーキング入門』小出義雄 / 幻冬舎
参考:URL APEC WIKI http://www.apecwiki.org
日本ウオーキング協会 http://www.walking.or.jp
養命酒製造株式会社 http://www.yomeishu.co.jp
タニタの健康応援ネット からだカルテhttp://www.karadakarute.jp
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