Aloha!今回はテレビ番組と子どもの暴力性についてお話していきたいと思います。
日本ではアンパンマン、アメリカではポケモンなどのアニメのなかで、戦闘の場面があるとそれを見た子どもが暴力的になるというクレームがあるそうです。果たして本当に子どもはアニメや漫画・映画やゲームなどの影響で暴力的になってしまうのでしょうか?
確かに子どもには“モデリング”という性質があります。これは見たものをそのまま真似る行為で、両親や友達の行動を、いつの間にかコピーしていることを指します。善かれ悪しかれ、子どもは周囲をよく見、その行動を真似することで成長していく一面があるのです。
しかしそれだけで、子どもの暴力性にアニメやゲームが関係していると決めつける理由にはなるのでしょうか。2016年のステッソン大学の研究によると、アニメやゲームが子どもに与える悪い影響はなんとわずか0.64%、なかでも他人への暴力性という意味では0.04%だったというのです。2018年のミシガン大学の研究でも、悪影響は0.08%だという結果が出ています。
すなわち、アニメやゲームなどの戦闘描写を見たからといって、何かを破壊したいという衝動や思い通りにいかないことに対し暴力で反抗するといった悪い感情にはほぼ直結しないと言うのです。むしろ“たたかいごっこ”(モデリング)を通じて、他者との関係性を深め、世界との関係性を広げていくことになります。これは子どもの成長に欠かせない重要な経験となるのです。
そして、子どもの暴力性に関係すると現在言われているものは、親の喫煙と体罰です。喫煙妊婦から生まれた子どもは、キレやすく、将来犯罪者になる確率が高いという研究結果があります。これは胎児期の脳がニコチンなどの有害化学物質によって何らかの障害を受けるためだそうですが、幼少期からの受動喫煙も子どもの注意欠陥多動性障害(ADHD)における”他者への攻撃的性格”や攻撃的行動障害の大きな原因となります。
また、家庭や学校での体罰も、子どもの暴力性に密接に関係しています。体罰を受けてきた子どもは、より攻撃的である傾向が高く、友達関係において暴力をふるったりふるわれたりすることを容認する傾向が高いなどの研究結果が出ています。これは攻撃が痛みの経験に対する反射的行為であり、問題解決に暴力が適切な手段だと学んでしまうことによって、子どもの攻撃性が増加する大きな要因の一つとして考えられています。
したがって「最近子どもが友達を叩いたりする」のが、友達を本当に傷つけることが目的であったり、何かの問題を解決する方法としての暴力なのか、それともごっこ遊びの一環で、地球の平和を守るヒーローになって悪とたたかっている真似をしているのか、親は見極める必要があります。さらに、親は自分が体罰をふるっていないか、喫煙をしていないか、省みなくてはなりません。
今も昔も、子どもに一番影響を与えるのは、アニメやゲームではなく、親自身なのです。
ディラング真由子
神戸大学大学院人文学研究科博士課程修了。学術博士。2011年にハワイに移住。2児(1男1女)の母。日本在住中は小学生から大学生・留学生に国語を教えていた経験を活かし、2018年より学習塾「こども学習教室」の教室長に就任。
(日刊サン 2019.11.30)