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9月末、アラスカの知人からメ-ルが届いた。8月は雨が一滴も降らず高温だったが、9/25に3週間遅れでやっと初雪が舞ったとのこと。

 

駆け足で通り過ぎた秋の草原や、フェアバンクスの美しいオ-ロラの写真が添えてあった。きれいだなあ、行ってみたいなあ、でも「8月は雨が一滴も降らず高温だった」ですって?そういえば、日本の夏も暑かった!8月も9月も、10月に入っても暑くて、ラグビ-ワ-ルドカップでも汗と湿気でボ-ルがすべり、海外の選手がとても苦労しているそうだ。

 

フランスもスペインもこの夏は熱波がおそい、スペインは山火事が頻発、世界中が異常気象なのだ。 地球温暖化の影響が一番早くあらわれると言われている北極圏でも、アラスカ・カナダ・ロシア・グリ-ンランドなどで森林火災が多発、また今年6月観測史上最高気温になったグリ-ンランドで、そりを引く犬たちが海氷の上にたまった水の中を進んでいる映像が「海を渡る犬ぞり!?」というキャプションで配信され、我々にショックを与えたっけ。

 

一方、北極海の氷が溶けることによってここを経済発展の場としようと考えている国が近年沢山出てきた。なぜ?まずは資源。マンガン・ウラン等の鉱物資源はもとより、石油や天然ガスの宝庫で世界の鉱物資源の22%が氷の下に眠っているといわれ、氷が溶ければこの莫大な資源の採掘が可能になる。

 

第二は北極海航路。これまでは氷の溶ける夏期以外は通れなかった。それが2030年近くには夏には氷海ががなくなるのでは、とまで言われているのだ。現在東アジアと欧州を結ぶのはパナマ運河経由か、マラッカ海峡経由だが、北極海航路だと約2/3の距離、日程も1ヶ月と約10日間短くなり、燃料も半分になるとのこと。

 

ただこれがすぐに実現するか、というとそうでもない。南極は大陸で、北極は海が凍っている場所。どこの国のものではなく公海。だから米ロなどの原子力潜水艦が密かに氷の下を動き回っているそうだ。

 

しかし、南極は南極条約で各国の領有権と軍事利用が禁止されているが、北極海の方は我が国の大陸棚だと言って領有権を主張する国がいくつもあって、現に今この航路はロシアの砕氷船同行でないと通れないような状況だからコストがかなり高くつく。

 

北極圏国は海域を接しているアメリカ(アラスカ)、カナダ、ロシア、デンマ-ク(グリ-ンランド)、アイスランド、ノルウェー、スウェーデン、フィンランドの8カ国。そこに乗り出したのが中国。去年、「一帯一路」に絡んで「氷上のシルクロ-ド」構想を打ち出し、着々と実績を積んでいる。

 

「北極圏に最も近い国のひとつ」として北極海航路開発に熱心だし、すでにロシアの北極圏LNG基地に出資。また、トランプ大統領が買いたいと言って騒ぎになったグリ-ンランドだが、すでに中国はここのレアア-スやウラン開発に投資しており、最近は、空港建設の資金を提供しようとして、アメリカに阻まれている。

 

実は北極圏内にある米軍基地はグリ-ンランドとアラスカだけ。「冷戦が終わって、北方への関心が薄くなった上に、南シナ海で中国が南沙諸島などに基地を次々作っていたので、一時は兵力をそちらに手厚く展開していた。しかし、中国の北極圏への進出をみて、警戒心を抱いたんだ。だから今、米軍はアラスカの基地で寒冷気候の下での訓練を再開したんだよ」と安全保障関係者が話してくれた。

 

北極圏は自然の宝庫。多様な生物を保護するために沿岸には多くの自然保護区が設けられている。しかし氷が溶けるとシロクマなどはアザラシなどの食物がとれなくなり、やせ衰えたシロクマの映像も目にするようになった。また海水温度が低くなって海流の流れが変わり、偏西風の蛇行がおこり、地球全体がおかしくなってしまうのだ。

 

だからこそ「地球候温暖化の弊害を私たち若い世代に押しつけないで」というグレタ・トゥンベリさんの国連演説が胸を打つ。開発に、軍備にかけるお金があったら、ぜひこの宝庫を守るために使ってほしいものだ。

 


川戸恵子 (かわどけいこ)

TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。


 

 

(日刊サン 2019.10.12)