北海道の釧路に単身赴任している息子曰く「オレ、今、自転車通勤しているんだけど、なんか後ろで気配を感じた!と思ったら、何かが脇をあっという間にすり抜けて行ったんだよ。なんとエゾジカ!ここではシカはしょっちゅうみかけるけど、あんなに速いんだってしらなかったよ!」
一度は石炭や造船で栄えた港町・釧路の市街地にシカ?と思ったら、最近はこのエゾシカが異常繁殖しているそうで、ヒグマの目撃情報もあり、釧路市では「鳥獣被害防止計画」を発表しているという。
でもヒグマはともかく、あのかわいらしいシカが害獣なの?と不思議に思ったら、最近は鳥獣による農作物の被害が深刻な状況になっているのだそうだ。過疎化や高齢化で人間がいなくなり、耕作放棄地も多く、さらに雪が少なくなり鳥や獣の生息地が増えているという。一方、人間になれ始めている面もあり、人間の作る農作物のおいしさに目覚めて?農作物を荒らす。
さらにハンタ-の高齢化・減少が進んでいる影響も大きく、農水省によると2017年度の農作物被害額は約164億円!全体の7割がシカ・イノシシ・サルによるものなんだそうだ。
特にシカは新芽や木の皮、植林したばかりの若木を丸坊主にするので、森林被害の約8割がシカによる被害。おまけに草食動物なので人里に出ては穀物・野菜・果物そして花まで食べてしまう困りものだそう。
さてどう防ぐか?農水省曰く、まず侵入防止柵。シカはジャンプ力があるので高さが必要。シカの天敵・オオカミなどの声を流したり、青色LEDの光で脅す、というのも効果があるとのこと。そういえば和風庭園にある「鹿威し(シシオドシ)」は音でシカを追い払っていた名残なんですね。
そして、ハンタ-。猟銃で仕留めるだけではなく、シカには「くくり罠が有効」とあったので、思い出したのが自民党の牧島かれん衆議院議員。彼女はなんとこの「くくり罠」の免許を持っているのだ。(銃だけでなく、罠にも免許がいるとは知らなかった!)
「私の選挙区は東京の隣の神奈川県だけど、でも横浜市などと違って丹沢山地の麓の自然の豊かなところなんですが、イノシシ、シカ、サルの被害がひどいんです。植林してもシカが苗木の新芽を食べてしまうし、畑の野菜は収穫直前にイノシシにやられる。下生えの草を食べてしまうから土砂災害が起きる。
その結果、農業を辞める人もいる。一方、ハンタ-も高齢化しているんで、私も友達といっしょにワナ免許を取りました。今、『山ガ-ル』の方に『狩りガ-ル』にならないかって誘っています」。甚大な鳥獣被害を受けて、野生動物は「保護する」から「共存・管理・捕獲する」という方向に考え方がかわり、2007年には鳥獣被害防止法が成立している。
でも捕獲した野生動物は?牧島さんに聞いたら「狩ったシカやイノシシですか?野生の命は美味しくいただくことも大事、自分達で解体していただいています。美味しいですよ!」西欧では「ジビエ」といって当たり前のように食べられているが、日本ではイノシシは「ぼたん鍋」(盛りつけが牡丹の花のようなので)と言って食べられているが、シカはごく一部のレストランで冬の狩猟シ-ズンになると食べられるくらい。現在はこのジビエの1/4程度がペットフ-ドになり、その9割以上がシカが原料なんだという。
そこで牧島さんたちは捕獲の促進と利活用を推進、地域資源として地方創生を進めることを目的に「ジビエ議員連盟」を発足させた。政府もこれに応え、去年5月に「国産ジビエ認証制度」を制定。捕獲してその場でジビエ料理を楽しむジビエモデル地区を作ったり、プロ向きのジビエ料理セミナ-を開催したりしはじめた。
でも「臭いからイヤ、と言う人もいますよね?」「それは一にも二にも血抜きも含めた解体処理の技術や冷凍保存の仕方の問題です。だから『ジビエカ-』を導入したんです。捕獲現場と連携してこの車内で冷凍までしてしまうなど、実際にジビエをどう利活用するか、ノウハウを地域に伝導して回っているんですよ」
そういえば、冷凍食品売り場でパックのジビエを売り始めている。今年の冬は我が家でもジビエ料理を楽しんでみましょうか!
川戸恵子 (かわどけいこ)
TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。
(日刊サン 2019.10.05)