日刊サンWEB

過去記事サイト

平昌五輪でアメリカ男子がカーリング初金メダル

Bynikkansan

3月 3, 2018

▲平昌五輪ではスーパーマリオに似ていると話題になったマット・ハミルトン(中央)

 

 

皆さん、平昌オリンピックはご覧になりましたか?日本人なので、もちろん日本代表選手も応援しているのですが、アメリカ生活が長くなると新しい日本代表選手に疎くなり、こちらのテレビでよく目にするアメリカ代表選手の方が身近に感じたりもします。

 

2006年のトリノ五輪、2010年のバンクーバー五輪で二連覇を果たしながらも、2014年のソチ五輪では銅メダルさえも逃したスノーボード・ハーフパイプのショーン・ホワイトは、31歳にして3度目の金メダルを獲得し感涙。33歳で出場する平昌が恐らく自身最後のオリンピックとなるであろうスキーのリンゼイ・ボンは、滑降で銅メダルを手にし、「いつまでもスキーをしたいけど、もう体がついていかない」と声を詰まらせるなど、感情を露わにした三十路のアスリートに涙をそそられました。

 

冬季オリンピックで一番人気の競技といえば、フィギュアスケートかもしれません。しかし、私が一番気になった競技はカーリングです。カーリングは今大会で唯一、開会式前日の初日から閉会式当日まで毎日試合があった競技です。

 

ちょうど1年前、私が住むシアトル郊外のエベレットで全米選手権が開かれ、平日開催の予選会場はガラガラでした。そのおかげで選手同士の会話が直接耳に飛び込んでくる最前列に座ることができ、たまたま目の前で試合をしていたのが、平昌オリンピックでアメリカ初のカーリング金メダルを手にした男子代表のチーム・シュースターでした。

 

その時は、アメリカのカーリングでどのチームが強いのかなどの前知識はまったくなかったのですが、チーム・シュースターには一人、立派な口髭を生やした男性がいたのがとても印象的でした。いざ平昌オリンピックのカーリング競技が始まると、見覚えのあるその選手がソーシャルメディアで話題になっているではありませんか!

 

「あっ。あの時のあの人だ!」と気が付くと、俄然と興味が湧き、アメリカ男子代表の試合を優先的に見ることにしました。 立派な口髭を生やしたカーリング選手は、アメリカ代表でセカンドを務めるマット・ハミルトン。大会初日の2月8日に始まったミックス・ダブルスの種目で赤の帽子をかぶった姿が任天堂のスーパーマリオにそっくりで、ツイッターでトレンド入りするほど話題になりました。

 

また、アメリカ国旗カラーのカーリングシューズも注目を集めていたようです。彼がダブルスでペアを組んだ相手はベッカ・ハミルトン。2歳年下の妹です。兄のマットも妹のベッカも今回がオリンピック初出場。ミックス・ダブルスの予選は出場8カ国による総当たり戦で、ハミルトン兄妹は残念ながら2勝5敗で6位タイで予選敗退となり、準決勝進出は果たせませんでした。

 

背水の陣から世界の頂点へ 2月14日から始まった男子カーリングの予選では、出場10カ国による総当たり戦が行われました。ジョン・シュースターがスキップを務めるアメリカ男子代表は初戦の韓国戦を勝利に収める幸先のよいスタートを切りますが、日本を含む4チームに敗れ、6試合消化時点で2勝4敗と大きく負け越してしまいます。

 

予選敗退の瀬戸際に立たされたアメリカ代表の残り3試合はカナダ、スイス、イギリスの強豪揃い。カナダは2006年のトリノ五輪、2010年のバンクーバー五輪、2014年のソチ五輪と3大会連続の金メダリスト。スイスはバンクーバー五輪の銅メダリスト。イギリスはソチ五輪の銀メダリスト。残った対戦相手は強豪中の強豪ばかりでしたが、なんとアメリカが3連勝。

 

5勝4敗で3チームによる3位タイに並んだイギリスとスイスとは直接対決を制していたため、アメリカが第3シードとみなされ、準決勝進出が決定しました。第4シードはタイブレーク試合を行った結果、スイスがイギリスを破って滑り込み、準決勝進出を決めました。 準決勝でアメリカは第2シードのカナダと再対戦。相手の失投にも助けられ、予選に続く対カナダ2連勝で決勝進出を決めます。

 

決勝では7勝2敗で予選をトップで通過した第1シードのスウェーデンと対戦。予選では10-4で大敗を喫した相手ながら、決勝では第7エンド終了時点で5-5の同点。第8エンドではアメリカの最後の一投を残してハウス内のストーンがアメリカが4つ、スウェーデンが2つ。しかし、スウェーデンのストーンがハウスの中心に一番近い位置にあったため、アメリカはこれを動かさなければ得点できない状況でした。

 

金メダルがかかったこの一投。アメリカのスキップ、ジョン・シュースターは、まずスウェーデンの一番中心に近いストーンに自身のストーンをぶつけます。そのストーンがスウェーデンのもう1つのストーンにぶつかり、2つともハウスの外へ押し出されると同時に、自身が投げたストーンはハウス内に留まり、アメリカがなんと5点追加。第9エンドには2点を返されますが、10-7で優勝が決まりました。

 

2017年全米選手権で優勝したチーム・シュースター

 

金メダリストは落ちこぼれ組

スキップとはチームの司令塔で、カーリングで一番重要な最後のストーンを投じる選手です。アメリカのスキップは今大会で五輪出場4回目となった35歳のベテラン、シュースター。銅メダルを手にしたトリノ五輪では、シュースターは他のスキップが率いるチームの一員でしたが、自らスキップとして新チームを率いた4年後のバンクーバー五輪では最下位で予選敗退。

 

その4年後のソチ五輪でも9位で予選敗退。試合を左右する重要な場面での安易なミスが多く、「自滅男」呼ばわりされ、平昌オリンピックへ向けた強化プログラムからは除名されてしまいました。 そこでシュースターは前述のハミルトンをはじめ、同じような境遇の仲間を集めて新チームを結成。その名も「The Rejects(落ちこぼれ達)」。

 

自分を見限った人達にあっと言わせてやると言わんばかりに奮闘し、2015年の全米選手権では遠征やリンク使用料などの補助金が支給される補強プログラム選手を差し置いて優勝。一旦除名された強化プログラムに再び招聘されることになりました。2017年の全米選手権とオリンピック選考大会でも優勝し、シュースターにとっては4度目となる五輪出場権を手に平昌へ。

 

過去2回のオリンピックと同じ羽目になる恐れに直面しながらも、まさかの起死回生でアメリカのカーリング史上初の金メダル獲得。「将来2人の息子たちが見た時に誇りに思える映像がやっと残せた」と感無量の様子でした。

 

 

 


金岡美佐

1992年に渡米。サンディエゴからサンフランシスコ経由で北上し、現在シアトル近郊在住。MBAを取得し某有名IT企業のファイナンス部門で勤務するも、大のスポーツ好きが高じて脱サラ。スポーツライターへ転身。「スポーツは見て楽しむもの」をモットーに年中スポーツ観戦に大忙し。春夏は野球、秋冬はアメフト、冬春はアイスホッケー。一番好きなのはアメフト。シーズン中の土日はスタジアム観戦以外、外出不可


 

 

 

(日刊サン 2018.03.03