球場の外壁を飾るイチロー選手の姿
ゴールデンウィーク最後の週末となった5月4日から3日間、シアトルではマリナーズとロサンゼルス・エンゼルスとの対戦が予定されていました。6年ぶりにマリナーズに復帰したイチロー選手と、ベーブ・ルース以来の二刀流として話題を集めている大谷翔平選手の直接対決が見られるかも?と地元の日本人メジャーファンは大いに楽しみにしていました。
それと同時に、地元メディアではイチロー選手がその週末に現役を引退するのではないか?という噂も盛んに取り上げられていました。というのも、イチロー選手が古巣復帰するきっかけとなった正左翼手のベン・ギャメル選手が故障者リストから復帰。外野手5人体制となったマリナーズは、誰か1人を削るべきで、そうなるのはイチロー選手ではないか?
しかし、将来殿堂入りが確実な球団のレジェンドを解雇するわけにはいかず、イチロー選手自身が引退を受け入れるのではないか?との憶測が飛び交っていました。 そんな中、エンゼルスとの3連戦が始まる前日の3日、マリナーズはイチロー選手が球団会長付の特別補佐に就任すると発表。現役引退ではなく、今後もユニフォームを着て、チームと一緒に練習を続け、遠征にも同行するものの、今季はもう試合に出場しないと説明しました。
少なくとも50歳までは現役を続けたいというイチロー選手には、まだまだ引退する気持ちはなし。それと同時に、マリナーズ以外のチームでプレーする気持ちもないようです。一方、アメリカ4大プロ・スポーツで現在最長の16年連続でプレーオフを逃しているマリナーズは、今すぐに勝利に貢献できる選手を起用したいものの、球団のレジェンドの顔に泥を塗るような真似はできません。両者の話し合いの結果、至ったのが今回のユニフォームを着たままの特別補佐就任でした。
せっかく大谷選手の登板日がシアトル3連戦の最終日に決まり、イチロー選手がスタメン入り、あるいは大谷選手がまだ登板中に代打起用されれば、セーフコ・フィールドに集まったファンは豪華対決を目にできるはずでした。大谷選手自身も、憧れのイチロー選手との対決を楽しみにしていたようですが、少なくとも今季は両選手の対決は実現しないことになりました。
2010年春季キャンプでバットを手にするイチロー選手 |
大谷選手にサイレント・トリートメントと ブーイング
以後、イチロー選手は試合には出場しないものの、以前と同じように試合前の練習に参加。クラブハウスのロッカーもそのまま以前と同じ場所を使用しています。デーゲーム前には試合に出場するチームメイトがクラブハウスへ引き上げた後も、フィールドに残って背面キャッチの技を披露したり、サインをしてあげたりするなど、ファンサービスにも驚くほど熱心です。
4日からの3連戦でエンゼルスがシアトル入り。初日の試合前の練習が始まる前に、グラウンドに背を向けてチームメイトと談笑していたイチロー選手の方へ、大谷選手が歩み寄ります。すると、イチロー選手は突然、走って逃げ出す「サイレント・トリートメント」を見せ、そのイチロー選手を大谷選手が走って追いかける光景が見られました。
実は、イチロー選手は正面に立っていたチームメイトのディー・ゴードンのサングラスに大谷選手の姿が映っていたのを見ていたようです。この光景に、マリナーズのチームメイト達は大爆笑していました。 いざ、試合が始まると、更に驚くことがありました。5番・指名打者で大谷選手が打席に入ると、セーフコ・フィールドのファンから大ブーイングが沸き起こりました。
この球場で必ずブーイングを受けていたのは、現在ESPNで解説者を務めるアレックス・ロドリゲス(通称A-Rod)です。マリナーズにドラフト指名され、マリナーズでデビューし、頭角を現した選手ですが、2001年に巨額契約を手に同地区ライバルのテキサス・レンジャーズへ移籍。それ以降、ヤンキースへ移籍した後も、シアトルへ遠征に来る度に大ブーイングを受けていました。
A-Rodへのブーイングの音量には劣るものの、マリナーズのファンがブーイングを浴びせたのは大谷選手とメジャー最高の選手として高く評価されているマイク・トラウトのみ。マリナーズは昨年12月の大谷選手争奪戦で最終候補まで残っていたチームです。チーム傘下のマイナーチームに所属する若手有望株をトレードして、大谷選手獲得に有利となるよう海外FA選手との契約に必要なボーナス予算枠を手に入れたのですが、結局大谷選手はマリナーズの同地区ライバルのエンゼルスを選択。シアトルのファンはそのことを恨んでいるようです。
この試合では、大谷選手のチームメイトのアルバート・プホルスがメジャー通算3000安打を達成。敵チームの選手ながら、スタンディングオベーションで惜しみない大喝采で偉業達成を祝っていただけに、大谷選手へのブーイングを耳にすると、シアトルのファンはそれだけ逃した魚は大きかったと感じているのだと思いました。