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参院選挙が終わった。結果は「ま、こんなもんだろな!」野党は相も変わらずバラバラだし、争点も作れず、これでは「安定」を訴える与党に対抗しても無理、どうせ安倍一強は変わらないだろう、ということか。投票率が50%を割ったのはうなずける。

 

でも、「れいわ新選組」と「NHKから国民を守る党」が躍進、得票率が2%を超え、政党要件を満たしたことには驚いた。クラウドファンデイングで 選挙資金を「れいわ」は3億円以上、「N国」は1億円以上集めたといわれ、SNSを駆使した新しい選挙運動で「れいわ」は2人、「N国」は1人の参院議員を当選させたのだ。

 

政党要件を満たすと政党として選挙カ-やビラ、はがきを活用できるし、小選挙区の候補者が政見放送にでられるようになる。もちろんTVの政党の討論番組などに党首や幹部の出演が可能になり、露出度が増え、知名度アップにもつながる。さらに政党交付金を受け取れるようになる。

 

ちなみに「れいわ」は6700万円程度、「N国」は5900万円程度になるといわれている。過去にはこの政党交付金目当てか、締め切りの12/31までに議員が駆け込みで集まり新たに政党を立ち上げた例もあったっけ。

 

もうひとつ、感心したのは「れいわ」の参院選比例代表の「特定枠」の使い方。比例代表部分の当選者は普通は得票数の多い候補者から決まっていくのだが、今回作られた「特定枠」というのは例外的に票数に関係なく、政党がつけた順位の順番に当選者が決まっていくという仕組み。

 

野党は「合区であぶれた候補者の救済策にしか過ぎない。党利党略の改正だ!」と反対したが、与党が押し切って導入が決まったもの。各県から最低一人以上選出のままでは一票の格差が縮まらないので、前回参院選から島根と鳥取、徳島と高知を合区として2県から一人の代表を選ぶ、という形にしたものの、どちらかの県では候補者が出られなくなって不満がたまっていたからだ。

 

だから当然、「特定枠」を使うのは自民党のみ、と思ったら、「れいわ」の山本太郎代表が「特定枠」1位にALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の船後靖彦氏を、2位に脳性麻痺で重度障害者の木村英子氏をすえ、見事2人を当選させた。

 

過去にも政党で順位をつけた時代もあったが(「非拘束式名簿)、民意の行使を奪うという意見もあり今の制度に。でも「出たい人より出したい人!」票がとれそうもなく落選必至だが、どうしても入ってほしい人を上位にするのはアリだと思うし、誰を上位にするかでその党の性格がよくわかるとも思う。

 

いっそのこと参院は1人1票ではなく、県単位で選出すれば良いと思うのだが、憲法に書いてあるから無理。憲法改正というならここから始めてはと思う。 そしてこの二人が当選したことで、参院が大きく変わろうとしている。

 

脊髄損傷で車いす生活の八代英太参院議員が1977年に初当選し、車いす対応のトイレやスロ-プが設置されたものの、今回の二人の車いすは大型、船後さんは口もきけず目の動きのみで自分の意思を伝えねばならない状況で、さらなるバリアフリ-が必要なのだ。

 

参院の対応は素早かった。議院運営委理事会で、本会議場は入り口近くに大型車いすのまま入れる議席を設置、介助者同行もOKになり、投票の際には介助者が代理で起立したり、投票を認めることになった。

 

さらに意思疎通のためのパソコン持ち込みも認める、医療機器用の電源を設置するなどが決定され、8/1の臨時国会召集に向けて工事も始まった。 逆に言えば、国会では、できないことがありすぎるとも言える。

 

たとえばこれは衆議院が対象だが小泉進次郎議員が進めてきた「平成のうちに」の国会改革では、衆議院のIT化(タブレット端末の持ち込み)や女性議員の妊娠・出産時への対応(代理投票)を提言したが、結局見送られてしまった。

 

でも今回の二人の当選でいろいろなことが変わるだろう。国会が変われば役所も変わるし、一般社会も変わる。もう一度真剣に国会改革を一人一人の議員が考えてほしい。 参院選の結果判明直後から自民党内は次の総裁選に向けて動き出している。

 

本人は否定しているのだが安倍首相の4選はあるのか? 地元で側近を落選させてしまった岸田さんに総裁の目はあるの? 本当に令和おじさんの菅さんがおどりでるのか? 今回選挙であまりお呼びがかからなかった石破さんの今後は? さらに解散はいつ? 誰の手で解散するのか?等々目が離せないが、9月にも行われる内閣改造でその後の流れがみえてくるだろう。

 

 


川戸恵子 (かわどけいこ)

TBSテレビ・シニア・コメンテ-タ-。TBS入社後、ニュ-スキャスタ-を経て、政治部担当部長・解説委員さらに選挙担当として長年政界を取材。そのほか、これまでに自衛隊倫理審査会長、内閣府消費者委員会委員などを歴任。 現在、TBSNEWSで週一回の政治家との対談番組を制作。 また日本記者クラブ企画委員・選挙学会理事。


 

 

 

(日刊サン 2019.08.03)