日刊サンWEB

過去記事サイト

作曲家・歌手 水森英夫さん

Bynikkansan

10月 28, 2011

今回は演歌界を代表する大作曲家・歌手の水森英夫先生の 登場です。数え切れないほど多くの演歌のヒット曲を生み出 してきた水森先生は、氷川きよしを育てた人物としてもよ<知られています。若手の育成にも大変熱心で、たくさんの歌 手を世に送り出してきました。スターに必要なことは何か?「水森英夫・日米友好歌の祭典」でハワイを訪れていた水森 先生に貴重なお話しを伺いました。

ライター:相原光

 

 

皆さんに「スター」を届けたい

 

演歌の世界は今まで「天才待ち」だった

僕たちの仕事はいつでも仕事なんです ね。それで、いつでも仕事じゃないとも言え る(笑)頂いたお仕事に対して作品を書い ていくわけですが、発注された仕事だけで は飽き足らないので、自分のやりたいこと も実現していきたい。

 

例えば 「こういう歌手 を作っていきたい」と思ったら、人材を育て なければならないわけです。 「育てる」ということを実際に長い間や ってきました。

 

日本全国で開催されるカラ オケ大会に審査員として参加してスカウト することもあります。スカウトした人たちは 週二回はうちに来てもらってレッスンをし ます。レッスンは無料です。内弟子ですか ら、お金を取るということはできません、そういう子たちを育てて世に送り出すという ことをやっています。

 

今回のカラオケ大会の ゲストの 「三代目コロムピアローズ」や 「氷 川きよし」もそうした内弟子です。 氷川きよしはうちで4年レッスンを受け ました。高校三年生・ 18歳の時に福岡のN HK・ BSの番組で出会ったのですが、高校 を卒業してから上京し、22歳でデビューし ました。そういう子たちがた<さんいます。

 

今まで30人くらいスカウトしていますが、 デビューしたのは16人ですから、半分くら いですね。半分はデピューできない。10ヶ月くらいレッスンをするとデビューできる子 かどうかハッキリ分かります。歌い手として の向き不向きというのもある。

 

ある程度の行程をこなしていくうちに、つ いて来れない子が出てきます。そういう子 たちは歌手になっても無理、やっていけな いです。そういう場合は仕方がないので「こ ういう仕事を選んでも君は無理だからやめなさい」とはっきり伝えます。

 

かわいそうで すけれども、見込みのない子に「もう少しが んばれ」と言うのはもっといけないことだと 思うんですよ。 「これは大スターになる」と 思っても伸びる子と伸びない子がいます。 演歌の世界は「天才待ち」なんです。

 

五木ひろしや北島三郎・森進ー・都はるみ・八代 亜紀という人たちは、自分です でに何でも 出来てしまう天才なんです。そういう最高 に上手い人たちを待望んでも無理ですよ。

 

そういう天オたちは、演歌が良い時代だっ たから演歌に来てくれたけれど、演歌がこ んなに悪くなったら、儲からないと分かっ たら、今の若い人たちは頭がいいから来て くれませんよ。他に行ってしまいます。職業 の選択肢が今はたくさんありますからね。 こんなに難しいことのためにくるわけがあ りません。

 

演歌・ 歌謡曲は天下一品難しい ですから。世界の大衆音楽の中で、難易度 はナンバーワンだと思いますよ。演歌は制約が多い中で芸術性が問われます。 でもちよっと待てよ、今までの考え方って 間違えていたんじゃないだろうかと気づい たんです。

 

カラオケ大会で30人だけ決勝に 残す場合、30番目に入るかどうかギリギリ の人をあえてスカウトしてスターに育てた 方が、演歌・歌謡曲はもっと盛んになるのか なと思うんですね。ヘタな人たちの方が身近に感じる。天オは遠く感じます。

 

「すごく上 手い、飛び抜けている」という人は、それは それで探しています。しかし、上手ではない 人たちをスターにしたら「私もやりたい」と 言う人が増えるかもしれない。そういうこと も考えてやっていきたいと思っています。

 

 

演歌・歌謡曲には決まった発声法がない

日本の演歌・歌謡曲は約100年の歴史し かないんです。大正3年に流行歌第1号とし て 「カチューシャの唄」が発売されました。 これは大作曲家・中山晋平が島村抱月の書 生だった頃、 「私たちはこうして子供の歌ば かり作っているけれど、大人の歌があっても いいんじゃないでしょうか」と抱月に尋ねた ことから生まれました。

 

数ヶ月、 「カチューシ ャの唄」という松竹映画がクランクインする ことになり、挿入歌を松井須磨子に歌わせ たいので作って欲しいと抱月は頼まれまし た。そこでふたりが作ったのが「カチューシ ャの唄」でした。映画が封切りされるとこの 曲は大変評判となり、皆が口ずさむように なった。これが歌謡曲第一号です。

 

それから100年経った現在も、演歌・ 歌 謡曲はクラッシックのように決まった発声法が未だに確立されていません。決まりようがない。演歌・歌謡曲というのは浪曲風・ 民謡風・ ジャズ風・ポップス風・ロック風と様々 なスタイルがある。それをたったひとつの歌 唱法でまかなうというのは無理なんです。

 

しかし、93%くらいは「こういう発声をす れば殆どまかなえる」という発声法はあり ます。僕が作ったんですけどね。僕が作って 弟子たちにそれを教えてきました。僕も歌 手として50年前にデビューしているのですが、発声については誰も教えてくれなかっ た。

 

歌手仲間に聞いてみても、みんなが一 番悩んでいることは同じこと「発声」です。歌 手100人に聞けば、100人が同じことを言うと思いますよ。自分の発声方法が正しい のか、それに答えてくれる指導者がいない んです。 僕の作った方法はそれに対して93%は 正しいと言える発声法です。

 

その発声法の ポイントは「声の当て所」です。声をどこに当 てて出す か、その訓練をやっているわけで す。それがだいたいl時間10分かかります。 いいところにキチッと当たった発声が出 来れば、七難隠すんですね。ところが、歌唱 カは抜群にあるのに発声が駄目だと人に届 かない。発声をちゃんと覚えると安定した 声が出ます。そうすると詞がはっきり聞こえ ます。

 

演歌・歌謡曲は詞を伝える音楽です から、どんなにコブシがコロコロまわって、 表情が豊かでも、声がもぐってしまって詞が聞こえないと、聞き手は聞かなくなりま す。上手い人はた<さんいるのですが、発声ができていないと人を感動させることはで きない。最終的には上手い下手ではなくて、 「感動する歌手」を僕は育てたいんです。そ のためには発声力なんですね。