古代文字というと現代の生活には縁のないもののように思えます。しかし、私たちが毎日読んだりタイピングしたりする漢字は古代中国の象形文字「甲骨文字」が起源ですから、実は日常生活に深く関わっていると言えるでしょう。古代文字を起源とする文字として、漢字は世界で最も長く使用されていると言われています。また、歴史で習ったメソポタミア文明の楔(くさび)形文字や、よく知られているエジプト文明のヒエログリフなども象形文字の仲間です。今回のエキストラ特集では、漢字とヒエログリフを中心に、知って楽しい古代文字の歴史や雑学をご紹介したいと思います。
絵文字と象形文字の違い
絵文字
象形文字
文字の起源
絵文字の出現― 紀元前80世紀頃
古ヨーロッパ文字
人類史上初めて文字が出現したのは、紀元前80世紀頃、旧石器時代のヨーロッパ南東部一帯と言われています。「ヴィンチャ文字」とも呼ばれるこの文字は、なんらかの情報を持つ記号に近いものでした。ギリシャ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、セルビアなどの遺跡発掘で、土器に刻まれたものが多数見つかっています。初めは簡単なシンボル 人類史上初めて文字が出現したのは、紀元前80世紀頃、旧石器時代のヨーロッパ南東部一帯と言われています。「ヴィンチャ文字」とも呼ばれるこの文字は、なんらかの情報を持つ記号に近いものでした。ギリシャ、ハンガリー、ブルガリア、ルーマニア、セルビアなどの遺跡発掘で、土器に刻まれたものが多数見つかっています。初めは簡単なシンボルだった古ヨーロッパ文字ですが、徐々に複雑になっていきました。ルーマニアのタルタリアで発掘された紀元前70世紀頃の粘土板には、記号が行となって文章のように描かれています。しかし現在のところ、記号の意味はほとんど解明されていないといいます。
賈湖契刻文字
象形文字 ― 最初の文字体系
最初の文字体系が出現したのは、紀元前41世紀後半、青銅器時代初期のシュメール(現在のイラク・クェート)で、紀元前31世紀後半頃、その原文字をルーツとした古代楔形文字が完成したと言われています。エジプトでは、紀元前33世紀頃にヒエログリフの起源となる「原ヒエログリフ記号体系」が確立しました。インダス文明(現在のインド、インダス川流域に発祥)のインダス文字は、紀元前31世紀頃に原文字として出現し、紀元前20世紀に起こったインダス文明の衰退まで古代文字として発達しました。また、漢字は紀元前61世紀、後期新石器時代の中国で発生した原文字が発祥で、紀元前16世紀頃、殷王朝初期に甲骨文字から漢字に発達したという説があります。
ヒエログリフ ― 紀元前33世紀頃
難解なヒエログリフを操る書記は尊敬の対象だった
古代エジプトで使用されていた象形文字、ヒエログリフは、エジプト王朝の維持や運営に重要なものでした。そのため、ファラオ(王)や神殿、軍などに仕え、ヒエログリフの読み書きができる書記は大変尊敬されていたと言います。ヒエログリフの読み書きを体得するのはとても難しいものでしたが、書記の社会的地位を保つため、最初のヒエログリフから数百年をかけ、書記の地位を保つため、さらに難しくされていきました。ヒエログリフがいつから使われ始めたかははっきり分かっていませんが、原始王朝時代以前、紀元前41世紀の壷に描かれた記号がヒエログリフに似ていることが知られています。現在のところ、上エジプトの遺跡から見つかった紀元前33世紀頃の粘土板「ナルメルのパレット」に刻まれた文字が最古のヒエログリフとされています。
楷書のヒエログリフ、行書のヒエラティック
紀元前31世紀頃になると、ヒエログリフに加えて「ヒエラティック」という神官文字が登場します。ヒエログリフは神聖文字と言われ、神や、神と同等の立場のファラオを称える墓、石碑、神殿などに刻まれました。漢字に置き換えると「楷書」に当たります。一方で、パピルスに手書きで書かれる際はヒエラティックが使われましたが、これは漢字の「行書」に当たります。
庶民は読み書きできないよう、故意に複雑化
古代エジプトでは、文字は王朝の文化、学問などがどれだけ発展しているかを表すものでした。特にヒエログリフは重要な文字とされ、ヒエログリフを学習できる人は限られた高い地位にある人々のみでした。また、一般庶民には読み書きができないよう、文字や文法はわざと複雑化されました。
簡略化が始まる
エジプト中王国時代(紀元前2040年〜紀元前1782年)には、ヒエログリフを簡略化するための改革が行われました。文字の数を約750字にし、一定でなかった単語の綴りも統一されました。中王朝時代は、古代エジプト語が、より細かなニュアンスを表現できる中エジプト語に移行した時期でしたが、この変化はヒエログリフを簡略化へ導いた要因の1つでした。同じ時代、古代オリエントでも使用する楔形文字の文字数を減らす改革がありました。
デモティック(民衆文字)の登場と ヒエログリフの衰退
末期王朝時代、紀元前650年頃のエジプト第26王朝時代に入ると、ヒエラティックが簡略化された草書体で、民衆文字とも呼ばれる「デモティック」が登場します。古代ローマ帝国がエジプトを統治すると、徐々にギリシャ文字が浸透し、紀元後4世紀頃、ヒエログリフはついに姿を消してしまいます。最後のヒエログリフは、フィラエのイシス神殿内にある礼拝所の壁に書かれたデモティックで、「紀元後394年8月24日」と日付が記されています。
ヒエログリフでも日本語の発音表記が可能
ヒエログリフは、左右どちらから書き始めてもよく、日本語のように縦書・横書療法で書くこともできます。読む方向は、動物や鳥の形のヒエログリフの頭がどちらを向いているかで判断されますは、文頭は頭が向いている方向になります。また、絵のように美しい象形文字のヒエログリフですが、実は表意文字よりも発音を表す表音文字が多くあります。そのため、日本語の発音をローマ字で表せるように、ヒエログリフの字体でも日本語や英語など、他の言語の発音を表すことができます。パソコンやスマートフォンでもフォントがあり、自分の名前をヒエログリフで書いてくれるサイトなどもありますので、興味のある方はぜひチェックしてみてください。
楔形文字 ― 紀元前31世紀〜
インダス文字 ― 紀元前27世紀〜