ハワイ西部に多くみられるサンゴ礁が気候変動の脅威にさらされているが、ハワイ大学マノア校の科学者たちは、生物学者のサンゴ礁保護に利用できる新しい技術を開発した。
環境DNAジャーナル誌に発表されたこの技術は、少量の水から採取したDNAを分析し、サンゴ礁の状態を迅速かつ安価に判断することができるものである。 この技術を開発したのは、UH海洋生物学大学院生のパトリック・ニコラス氏と、UH生物学部准教授のピーター・マーコ氏である。 目視調査が、水中生態系の健全性の測定のために広く使われている。
しかし、サンゴ礁の生きているサンゴを目視調査する伝統的な調査法は、一般的にスキューバダイバーのチームやドローンによって行われ、時間がかかり、調査現場に行くのが難しいこともあり、比較的高コストである。 eDNAとして知られている「環境DNA」は、すべての生物が自分のDNAを廻りの環境に流出させているという事実を利用した、確立された方法である。この技術は、この環境DNAを検出・分析・同定するものである。 しかし、この技術はこれまでのところ、生きているサンゴには使われて来なかった。
ニコラス氏は、「メタバーコーディング」と呼ばれる手法を採用した。これは、水サンプル中のすべてのDNAを、DNA塩基配列決定法を使い1回で分析する手法である。 サンゴのDNA配列が識別され、各サンゴ礁に何種類のサンゴがあるかが特定される。劣化したサンゴ礁からはごくわずかなeDNAしか検出されないが、健康なサンゴ礁からは強いサンゴのeDNAが多く検出される。
この新しい手法により、サンゴ礁の健康状態や組成の変化を経時的に追跡できるだけでなく、伝統的な調査法では見逃してしまう可能性のあるサンゴの「種」を検出できるとのこと。 ニコラス氏は、この新しい手法はハワイ海域のサンゴに有効であることが証明されているが、他の地域での応用にはさらなるテストが必要だと述べた。また、深海のサンゴ礁の健康状態や組成などの新しい領域の研究を可能にすると語った。 国際自然保護連合によると、サンゴ礁は地球上で最も脅威にさらされている生態系のひとつで、主に気候変動と環境悪化の影響に曝されている。
(日刊サン 2019.05.18)