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カナダ人落語家 桂三輝 独演会開催

Bynikkansan

2月 6, 2019

カナダ出身の落語家、桂三輝(かつら さんしゃいん)さんの独演会が、1月30日、ハワイ大学マノア校のオルビス・オーディトリウムで開催された。この独演会は、ハワイと日本の文化交流プロジェクト“The Bridge between Hawaii and Japan“として、在ホノルル日本国総領事館、ハワイ日系人連合協会、ハワイ大学マノア校日本研究センターが主催した。

 

三輝さんはトロント出身。大学で古典演劇を学んだ後、日本の能に興味を持ったことをきっかけに1999年に来日。その後、英語漫才などの芸能活動をしながら大阪芸術大学大学院で創作落語を研究。2008年に六代桂三枝に弟子入りし、上方落語史上初の西洋人噺家として活動を始めた。2009年にカナダで英語落語を初公演。現在はニューヨークのオフ・ブロードウェイで高座をつとめながら、北米、ヨーロッパ、オーストラリア、香港など世界各国で、英語や中国語での落語公演を行なっている。

 

ハワイ公演は今回が初。地元の日系人や在住の日本人、大学関係者、メディア関係者ら約400人が来場し、会場はほぼ満席という盛況ぶりを見せた。「落語を観たことがない」という観客も多い中、三輝さんは英語ならではのユニークな語り口を披露した。

 

日本研究センター代表のロニー・カーライル・ハワイ大学教授は、冒頭の挨拶の中で、「ハワイと日本の文化交流の一環として、総領事館が落語公演会の開催を提案してくれたことを嬉しく思う」と述べると共に、「これからもハワイの人たちが楽しみながら日本文化に造詣を深められるような文化交流イベントを企画していきたい」と語った。

 

ロニー・カーライル・日本研究センター代表

 

その後、舞台袖から三輝さんが登場すると、会場一杯の拍手の中で歓迎のレイが贈呈された。三輝さんはマクラで自己紹介を交えながら、外国人落語家ならではの体験談などを流暢な日本語混じりの英語で語った。また、修行時代に英語要員として師匠のニューヨーク公演に同行した際、乗ったタクシーの運転手が移民だったため英語が通じなかったというエピソードなどを披露。会場が大きな笑いに包まれたところで本題に入り、古典落語の『寿限無』、新作落語の『動物園』の2話が演じられた。

 

「寿限無」は、早口言葉や言葉遊びとして知られる噺。親が生まれた子どもに縁起のよい名前を付けようと思い、相談に行った先のお寺で教えてもらったおめでたい言葉を全て並べて名前にしたところ、やたらと長くなってしまった。成長した子供は学校に通うようになったが、寝坊が多く、母親が起こそうとして長い名前を呼んでいるうちにその日の授業が終わってしまったというオチで締めくくられる。

 

ドイツの小話が起源と言われる『動物園』は、2代目桂文之助が落語に仕立てた新作落語。朝に弱く、力仕事が苦手な上に口下手で何の仕事も続かない男が、出勤時間が午前11時で話す必要もなく、昼食と昼寝もあって報酬は1日1000ドルという好条件の仕事を紹介してもらう。その職場は動物園。先日死んでしまった虎の毛皮をかぶって虎になりすますという仕事だった。檻の中で虎のふりをしていると、突然アナウンスが始まり、「虎対ライオンのショー」の開幕が告げられる。予想外の展開に慌てふためく男は、檻の中にライオンが放たれて絶体絶命のピンチを迎える。しかし、ライオンは男の耳元に近づき、こう囁いたのだった。「心配するな、大丈夫だ。俺も1000ドルで雇われているんだ」

 

本題の後は観客との質疑応答が行われ、三輝さんは「上方落語では見台と膝隠しが使われるが江戸落語では使われない」など落語に関する雑学や、1人で何役もこなしながら話を進めていく落語の難しさ、面白さになどについて語った。

 

「英語落語を観たのは初めて」という在住の50代の男性は、「かなり早口の英語だったのに聴き易く、日本語で落語を聴いているかのように理解できました。英語を勢いがよく軽妙な話芸として落語に活かす三輝さんの技術も見事で、違和感を感じなかった。機会があればニューヨークのオフ・ブロードウェイにも足を運びたいと思っています」と感想を述べた。 (取材・文 佐藤リン友紀)

 

閉幕後、会場の外で観客との写真撮影に応える三輝さん

 

(日刊サン 2019.02.06)