NYに暮らしていると、たくさんの文化や宗教、人種がいりまじり朝から晩までで多種多様なひとたちと交流がある。
朝、行った歯医者さんではポルトガル語とハンガリー語が飛び交い、昼から夫アダムのアートスタジオにもどると英語のほかにロシア語、中国語、スペイン語が同時に廊下の向こう側から鳴り響いている。ジャズとカントリーミュージックとロックとが同時にかかっているようだ。でも、それは不調和にならず、独特のハーモニーを醸し出す。そんな環境の中で生活していると、自分が「日本人」だということを強く意識して誇りに思うときもあるし、逆に〇〇人という枠をこえてみなおなじ「地球人」だと思うことも多々ある。
この雑多な感じの多様性と、でもすべてがつながっているという相反する共存がたまらなく好き。NYで暮らすようになり、気づいたことがある。それはユダヤと日本との共通点。週末はちょうどキリスト教の復活祭(イースター)とユダヤ教の過越しの祭り(パスオーバー)があり、またその「共通点」を強く認識するできごとが重なった。イースターは、よく耳にするけれど、ユダヤのパスオーバーは日本で住んでいるとイースターほどには知名度がないのではないかと思う。ネットで調べるとたくさん説明がでてくるのでここでは詳しくは書かないけれど、要点をまとめるとこうなる。むかし、エジプトで奴隷だったユダヤ人が、モーゼに導かれエジプトを脱出。奴隷生活から解放したことを祝うのがパスオーバー。この歴史を忘れないための伝統的な儀式をおこなう祭日は、春分の日の後、最初の満月の日に祝いをするらしい。そして、約1週間に渡って儀式が行なわれる。
NYにはたくさんのユダヤ系アメリカ人が生活していて、わたしもユダヤ系の友人宅へパスオーバーの食事に招待され、今年もパスオーバーを祝ってきた。普段は、けっして敬虔なユダヤ教徒でない友人夫婦も、この日は大切にしている。そして、また子どもたちに受け継がれていく。パスオーバーでは、まず徹底的に家の大掃除をする。そして、次の日家族親戚で集まり食事。並んだたべものひとつひとつに深い意味がある。この一連の流れは、日本のお正月を思い出す。かなり割愛したけれど、あげるときりがないほどに類似点がある。他の国や文化について深く知っていくことはおもしろい。どうしてその行事をするのか?なんでそれをたべるのか?ひとつひとつ紐解いていくと、今まで受け継がれてきた伝統にはすべて意味がある。「知る」ということは大切なこと。そして、まずは「知りたい」と思う好奇心こそが、これからの未来への未知なる可能性を広げてくれる。
(日刊サン 2018.04.10)
大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。 www.chizuomori.com