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アンダギーおばさん、古琉球の舞台を演出 沖縄県浦添市の民間大使に任命

Bynikkansan

2月 1, 2018

 生まれ育った所ではないけれど、そこを故郷と思えるような場所がある。マルカイ・スーパーの入り口で「アンダギーおばさん」と親しまれていたマーティン・暁美さんにとっては、沖縄がまさにそうだと言える。

石川県金沢市生まれ、千葉育ちの暁美さんが沖縄と出会ったのは、米陸軍で医師を務めるご主人と出会って嘉手納基地に転属になった1989年。7年後にハワイに移ってからも「琉球國祭り太鼓ハワイ」を立ち上げ、秋の恒例行事となっている沖縄フェスティバルにも大きく貢献してきた。

一昨年には沖縄県浦添市の民間大使にも認定され、恩返しのつもりでこの7月24日にはハワイ沖縄センターで「古琉球、うらおそい三大王統」と題して琉球王国統一(1429年)以前の古琉球時代を沖縄芸能で舞台演出する。

 

 

祭り太鼓は「平和の架け橋」

暁美さんがご主人とともに嘉手納基地に移ってきた89年、子供が通う沖縄市立美里小学校のPTA副会長に就任したものの、地元住民の間では反米基地闘争として全国的に有名になったコザ暴動(1970年)の名残もあってか当時もまだ反米感情が根強く残っていた。「ヤンキー・ゴー・ホーム」の叫び声が今でも耳に残る。対立感情を何とか友好的なものにできないか、と考えていた暁美さんは、駐留米軍の夫人たちで作る「アメリカ女性福祉協議会」会長の通訳となり、多くの障碍者、高齢者、児童施設などを慰問して回った。その時に出会ったのが沖縄の伝統的な踊り・エイサーと空手の型を組み合わせたユニークな太鼓スタイルの「琉球國祭り太鼓」で、米空軍基地の中に「祭り太鼓・嘉手納支部」を設立した。初めての国際支部だ。

この祭り太鼓を通じての日米間の交流は暁美さんに大きな自信を与えた。「この祭り太鼓を通じれば言葉の障壁を超えて国際交流を発展させることもできるし、また沖縄の文化を伝えることにも役立つ。これは平和への架け橋になるかもしれない」。

96年、ご主人がハワイへ転属になってからも暁美さんの夢は膨らみ、すぐさま「琉球国祭り太鼓ハワイ」を立ち上げ、ハワイ日本文化センターの開催する「オハナ・フェスティバル」はじめ多くの地域コミュニティーの行事に参加、その知名度を広め、今ではカウアイ、マウイ、ハワイ島にまで支部が設立された。

暁美さんの沖縄に対する情熱はすでに「病膏肓に入る(やまい こうこうに いる)」の感があり、太鼓以外にも世界ウチナンチュー・ビジネス協会ハワイの副会長、つい最近では太平洋文化交流協会ハワイ支部を立ち上げ、古琉球の中心地でもあった浦添市にハワイ文化を伝えるクラスまで発足させた。

 

 

古琉球時代は浦添が中心地

浦添(うらそえ)は「津々浦々をおそう(諸国を支配する)」という意味が転じて「うらおそい」「うらそえ」とも呼ばれ、那覇から北およそ10キロに隣接し、現在は那覇のベッドタウンとなっているが、古琉球時代の首都でもあった。その古琉球(紀元12世紀前後から15世紀初期)のころの代表的な王が舜天(しゅんてん)、英祖(えいそ)、そして察度(さつと)で、当時の王様の血統支配を三大王統と呼ぶ。英祖は戦にも長けて領地を拡大し、1429年の統一王朝(第一尚氏)が都を首里に置く前まで浦添の地は政治的にも経済的にも、そして仏教の伝来など文化的にも琉球の中心地であった。英祖は母が日輪を夢見て妊娠したと言われ、後に英祖日子(えぞのてだこ)という神号を贈られた、英祖王統はおよそ50年続いたが、4代目には国は乱れ、中山・南山・北山という3つの領国に分かれて相争いうようになったという。中山の最後の王が察度王である。三山の王はいずれも王位に就く場合は当時の中国・明から即位を認証する詔文と衣冠の下賜を受けるのが慣例で、政治的、文化的にも明の影響が強くうかがえる。

この時代の文献は1650年に編纂された中山世鑑(ちゅうざんせいがん)以外はほとんど残っていないため演劇の題材にされることは少ないが、暁美さんはあえてこの「うらおそい三大王統」を取り上げる。「てだこ(太陽の子)の町の松本哲治市長から民間大使に任命していただき、浦添市の歴史を自分なりに勉強してきました。そのことをできるだけ多くの人にも知ってもらいたい」と暁美さん。

中山世鑑は琉球王国で書かれた初めての正史で、真偽は不明だが、源為朝が保元の乱(1156年)に敗れ、伊豆大島に流刑となった後、五島列島を経て琉球に渡り、その子が三大王統の最初の王「舜天」であることが記されている。沖縄には「朝」の字を名に持つ人々は為朝ー舜天の子孫だという俗説もある。

「古琉球 うらおそい三大王統」についての問い合わせは電話(808)282-2433、あるいはwww.rmdhawaii.org/ticketsまで。収益金はハワイ沖縄センターに寄付される。(文責:新名 瑛)

(日刊サン 2018.01.31)