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新しい年が明けて間もなくして、家族でハワイへ出掛けた。93歳の祖母も一緒だ。身体は健康そのものでぴんぴんしている祖母だけど、去年から、急に痴呆が進行し物忘れもひどく、一緒に同居する家族にとっては、平穏な日々が一変した。ハワイ行きも、「行く」「やっぱり行かない」を日に日に繰り返し戸惑った。

 

祖母をその気にさせたのは、夫アダムの優しい言葉。「おばあちゃん、ハワイに行ったらあたたかいよ〜!食べ物も美味しいよ〜! 僕が車いすを押すから一緒にいこうよ」 アダムのことが大好きな祖母は、「そうやなぁ。うん、行く〜」とようやく行くことを決めたのが、出発前日 !家族で胸をホッと撫で下ろした。

 

出発当日、祖母の痴呆の調子も運良く良好。高松空港発着の際にお世話になったCAさんたちに「今からハワイに行くんよ〜!」と嬉しそうに子どもみたいに話しまくり、「わ〜! スゴいですね! いいですね〜」と行ってもらえる度に、どや顔。そして、ハワイに到着。そこで私は、ハワイマジックを目の当たりにした。ハワイに行くと、病気が治る人がいるとよく話には聞いていたけれど、ハワイ滞在中の祖母は、頭が正常に戻っていた。そして、ベッドで横になっては「あ〜、極楽。サイコ〜やぁ」を数分置きに繰り返す。そして、ホテルの部屋からワイキキの夜景を眺めては、「ここはハワイやけど、この夜景はマンハッタンみたいや〜!」と言って私達を驚かせたりもした。

 

オアフ島は、子どもからお年寄りまでが楽しめる宝箱のような島だ。私の祖母のように痴呆でも、綺麗なお花を見たり、そよ風に包まれたり、波の音を聴いたり、ただ、ハワイの空気の中にいるだけで、五感が刺激され、随分と祖母の調子がよかった。

 

楽しい時間は、いつもあっという間に過ぎていく。常夏ハワイから、高松では珍しく粉雪の舞う極寒の高松空港に戻ってきた。帰国して数日はハワイがどれだけ楽しかったか、本当に行ってよかった、サイコ〜!を繰り返していた祖母だったけれど、今朝は、突然、「ロンドンたのしかったね」に変わっていた。え!?ロンドン?? 一瞬、一緒にハワイで楽しい思い出を創ったことが、彼女の中では全部消えてなくなってしまったのではないかという、寂しさとか切なさとかが押し寄せてきたけれど、笑顔で興奮して「ロンドン、サイコ〜!」を繰り返す祖母の姿を見ていたら、もう、行き先などどこでも良くなった。  これから、もっともっと忘れていくことも増え、それに伴い大変なことも、もっと増えていくだろうけれど、笑顔で居てくれたらもぅ、それでいいわ!

 

無邪気な子どもみたいになっていく、祖母の姿がとても愛おしく思えた。

 

大森 千寿

香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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