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 先日、アダムの幼なじみのTomが経営している会社、Shearwaterのマンハッタンクルーズに出掛けました。Tomは1920年代の貴重なアンティークヨットを2隻所有していて、世界中からやってくる観光客にセーリングクルーズを提供しています。  

 このヨットは、ハドソン川の港より出航し、約1時間半かけて自由の女神周辺をまわります。自由の女神とマンハッタンの摩天楼をヨットの上から眺める、とても贅沢な時間。出航して約30分くらいクルーズすると自由の女神の姿が間近に迫ってきます。何とも特別な瞬間です。ヨットの上では、”Wow!”という歓声が何度も沸き上がります。  

 

 自由の女神…。自由の女神を見たり、思ったりする時、私は必ずあることを思い出します。それは、アダムのおじいちゃんやおばあちゃんたちのこと。新たな人生を求めて1900年代、ヨーロッパから命をかけてボートでNYへ渡ってきた人たちです。  

 何週も何週も厳しい航海を経て、やっと遠く向こうに自由の女神の姿が見えた時、おじいちゃんやおばあちゃんたちは何を思ったんだろう?どんな気持ちだったんだろう?そして、船に乗っていたすべての人たちはどんな思いだったんだろう?  

 昔、アダムから聞いた話では、おじいちゃんは、小学生の時に兄と二人でNYへと渡ってきたそうです。家族には、二人分の船代しか残されてなくて、お父さんやお母さん、他の兄弟たち親戚、友人、みんなと今生の別れを告げ、小さな袋に家族の写真一枚と、身一つでNYへとやってきたそうです。  

 もう、二度とこの世では会えないということがわかっている。まだまだ幼い2人を送り出したご両親はどんな心境だったのか、想像を絶するとても辛いお別れです。しかし、その後、第一次世界大戦が悪化したこともあり、おじいちゃんやおばあちゃんがもしもNYに来ていなければ、その命はなかったかもしれない。すると、もちろんアダムもこの世に存在していない。  

 そう考えると、私が今、こうやって生まれて来れたのも例外でななく、奇跡の連鎖。両親のおかげ。そして、祖父母のおかげ。そして、曾祖父母のおかげ。そしてそして、ご先祖様みなさんのおかげ。すべてがつながり、今の自分が奇跡的に存在する。

「決してひとりの存在じゃないんだ…」  

 すると、今、この瞬間を生かされていることへの感謝の気持ちがとどめなく溢れ出てきました。  

 

 まだまだ肌寒いNYの風の中、ヨットでゆらゆら波に揺られ、ゆったりと上下に揺れ動く自由の女神。その姿が次第に遠ざかり、ついに見えなくなった頃、マンハッタンの摩天楼に今日もまた、灯りが点り始めました。

 

つづく

 

 (日刊サン  2016/5/23)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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