ココナッツの実の和え物、チキンケラグエンは、グアムのチャモロ料理の定番。
ハワイにいる時に通う料理教室のセンパイに、 長谷川千賀さんという秋田県出身の女性がいる。私より年下だけど、料理教室のアシスタントを務めるほどの料理上手。だから敬意をこめてセンパイと呼んでいる。
千賀センパイは私がココナッツの取材をしているのを知り、ある時「我が家の定番料理だよ」と、ココナッツ料理を持参してくれた。「チキンケラグエンとタティーザっていうの。グアムでは肉じゃが みたいによく作る料理。うちのダンナ、グアム出身の軍人なんだ」。
ココナッツをコリコリ削る道具、ハワイで売っていたら教えて!
チキンケラグエンはココナッツの果肉をたっぷり削ったものと、鶏肉を焼いて細かく切ってレモンマリネしたものの、ピリ辛和え。一見“おから料理”のような、白くてしっとりした風情。丸いお焼きのタティーザにのっけて食べるんだそう。
「タティーザは小麦粉とココナッツクリームとココナッツミルクを混ぜて焼いたパン。ちょっと甘い」。パンまで焼いてきてくれた。
「ケラグエンは味が薄かったらフェナディニをたらしてね。フェナディニっていうのは、グアムのピリ辛醤油ダレ。これもほんとにポピュラーで、マックにもケンタッキーにも置いてある調味料」。センパイはもちろん手作り。
どれどれ。わっ、ケラグエンおいし――! レモン風味の鶏と、ココナッツのシトッ、ネチッとした食感とほのかな甘みと、ネギかな、オニオンかな、薬味のアクセントと。これ絶対、日本人の口に合う。
「ね、秋田県人の私の口にもどんぴしゃ。焼いた鶏と、コリコリ削ったココナッツを、基本和えるだけだから簡単なんだよ」。新鮮なココナッツの実を削ったのって、こんなにおいしいんだ。「豚肉やエビ、マヒマヒを和えてもイケます」。
だけどこの、コリコリ削る道具はどこで売っているの?「 私はグアムで買った。そういえばハワイでは見かけないね」。実は写真の削り道具は、やはり料理の大センパイの、ハワイ在住スリランカ人の私物。取材に伺ったときに撮影させてもらったもの。これ、欲し――!
木の板の上にまたがって削る。グアムの家庭には普通にある調理道具なんだそう。
バリ島に取材に行った時は、ココナッツの果肉をいくつかに割って、その断面を細長いおろし金でおろして削っていたけど。それよりこの刃先で、半分に割ったココナッツをコリコリしたほうが 簡単なはず。
どなたかハワイで、売っているのを見かけたら、日刊サン編集部までご一報いただけませんでしょうか。お願いします。
共働きのご両親のもとで育った千賀センパイは、10歳の頃から台所に立っていたという。「少しでもおいしくって思いながら作っていた」。ネイビーの夫と、14歳になる息子とハワイに暮らして4年。千賀センパイの周りにはたくさんの食いしん坊が集って、手料理をごちそうになった。
だけど今月末、千賀センパイはハワイを去る。 長年勤めて退役する夫について、フロリダのペンサコーラの家に還るのだ。ペンサコーラでもコリコリトントン、台所でいい音を響かせながら、千賀センパイは我が家の味を作り続けるんだろう。
(日刊サン 2015. 5. 20)
奥山夏実 おくやまなつみ●フリーランスライター 『クロワッサン』の特約記者を25年続け、東京を拠点にハワイは毎年、半年ほど滞在。近著に『ココナッツオイルバイブル1、2』、『HAWAII 住むように暮らす』(ホノルルの博文堂でも発売中)など。 |