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夫の幼なじみジョシュアから「泊まりに来ない? 」と連絡が入った。彼は、マンハッタンで3人の子どもを育てるシングルファーザー。シングルファーザーと言っても、離婚後は元奥さんとともに1週間のうちでスケジュールをきめていて、子どもたちは二人の間を行ったり来たりしながら育っている。アメリカではよくあるケースだ。  

 

夜9時過ぎ。スタジオでの創作が一段落してジョシュアのロフトに到着すると、次女のエマ11歳が5ページに渡る数学の宿題を前に、奮闘中だった。  

ジョシュアが横で教えていたのだけど、8歳の長男エイダンが就寝時刻となった。そこで、「チズ、エマの宿題見てやって。お願いね〜」と言って、エイダンを寝かしつけるため彼はそのまま子供部屋へと消えていった。  

リビングルームにはエマと私、私の夫アダムの3人が残された。集中力が切れかけたエマは端正なその顔を歪めて、今にも投げ出してしまいそうな雰囲気だ。  

そこへ、アダムがこんなことを話し出した。「僕は、ストレスが溜まってきたらまず目を閉じて深呼吸するんだよ。そして頭の中で旅に出るんだ。たとえば、僕が大好きな場所はハワイ。ハワイの風がやさしく頬をあたって、目の前に広がっている海から、波の音が心地よくって…」  

そこまで話しかけたとき、「ちょっと待ってて!」とエマが立ち上がりキッチンへと向かった。そして右手にイタリアの微炭酸ミネラルウォーターサンペレグリノ、左手にシャンパングラスを持って戻ってきた。  

「ハワイでリラックスしてるんでしょ、ってことはシャンパンがあれば最高よね!」そう言って、それぞれのシャンパングラスにサンペレグリノを注ぎ始めた。「 cheers! ワイキキ気持ちいい〜!! パラダイスね! まだ行ったことないけど」

おませな11歳の会話にアダムと大笑い。それにしても実際にシャンパングラスとボトルを持ってくるこの発想力と行動力! さすが、生粋のニューヨーカーだ(笑)。  

 

もちろん、本物のシャンパンでもなければそこはハワイでもなく、パトカーのサイレンが鳴り響く夜10時を少し過ぎたマンハッタンのロフトだ。つかの間の「ハワイ」を満喫して笑顔になったエマはその後、驚く程の集中力を発揮して数学の問題を次々と解いていった。  

「想像力があれば、どんなことだって乗り越えていけるよね」  

エマが言い放ったこの一言に驚いた。夫と私がいつもよく口にしている言葉だったから…。  

生きていると日々様々なことが起こる。でも、どんなときも想像力を働かせると状況を変えていくことができる。そう、すべては自分次第だ。想像力は、私達をどんな世界にでも連れて行ってくれる。

 

(日刊サン  2017/10/4)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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