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はじめての母との二人旅

高校2年生の時、アメリカオレゴン州のセーラムという小さな町に高校留学していた。親元を離れてアメリカでの生活は、戸惑う事が山盛りの日々だったけれど、16歳という若さや家族、友人たちのお陰で、なんとか1日1日を乗り越えていた。  

そんなある日、ホームステイ先の家に、日本の母から一通の手紙が届いた。  

母の手紙には、「春休みが来たら、カナダに旅行に行こう! 」と書かれていた。アメリカからエアメールで届く娘の手紙の文章から、いつもの元気が無いということを察して、気分転換にカナダの旅へと導いてくれた親心も少しはあったのかなとも思う。そして、手紙の最後には、「現地集合でね。」との追伸が(笑)。  

さて、現地集合ということは、「アメリカからカナダまでは自力で来なさいよ」ということだ。このカナダ行きを実現させるためには、私にとって最大の難関を突破する必要があった。それは、チケットを手配するための電話。アメリカ生活で最も苦手だった電話での会話。少々英語の発音が悪くても理解してくれるここ、NYCとは正反対で、セーラムでは当時、ちょっとでも発音が悪かったら相手にしてもらえなかった。対面でも大変なのに、「一体、どうすればいいんだー!」って、叫びたくなる状況。しかも、今のように、インターネットから簡単にチケットを予約なんてできない時代。カナダ行きを実現させたいのか、させなくていいのか? いや、必ず実現させたい! となると、もう、覚悟を決めるしかない。ぐずぐずと悩んでいる暇もない。恥ずかしいなんて言ってる場合じゃない。友人の助けも借りて電話帳を開き、片っ端からセーラムにあるアメリカの旅行会社に電話していった。  

手に汗かきながらも、なんとかチケットを手配できた。当日、飛行機に乗り込むまで、正直、本当にカナダまで到着できるのかわからず、不安でいっぱいだった。そしてそして、ついに母との再会!まだ肌寒いカナダの、バンクーバー国際空港で、久しぶりに会う母の姿が遠くに見えた時は、嬉しさと同時に強い達成感を味わった。  

 

あの時、逃げずに向き合ってよかった。苦手な事にチャレンジするのはエネルギーがいるけれど、その後に得られるものはとても大きい。この件で、私は電話嫌いを少し克服することもできた。その後、クラスメイトとよく電話で話すようになり、英語力も伸びた。  

この旅をきっかけに、何事もどうにかなる、大丈夫、っていう度胸が前よりも身に付いたように思う。そして、はじめて母と二人だけで行った初のカナダの旅は、母と娘、お互いを今まで以上に深く知ることができ、仲をより一層深めてくれた、かけがえのない旅となった。

 

(日刊サン  2017/9/27)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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