足が不自由でも、慣れると一人でカヌーを楽しめるほどに上達
AccesSurf(アクセスサーフ)というNPOをご存知だろうか。心や体にハンディキャップのある人々に、海のすばらしさ、ウォータースポーツの楽しさを体感してもらう、オアフ島の非営利団体だ。
設立は2006年。月に1回、オアフ島の西、カポレイにあるホワイトプレインズビーチで、サーフィンやカヌー、水泳を楽しむイベントを開催している。自閉症や精神疾患などの知的障がいの人や、脳性麻痺や手足の不自由な身体障がいの人たちが、訓練を受けたボランティアによって、心ゆくまで海で遊べる一日だ。
車椅子の人はこれにお乗り換え!
心も身体も開放してくれる海、海はなんでも叶えてくれる!
サーフィンなんて初めて、というダウン症のちびっ子は、はじめは海に入るのすら怖がってベソをかく。ところがベテランのボランティアサーファーに優しく誘導されてボードに乗り、沖合いからメロウな波に乗り始めると表情が一転、お陽さまのように笑顔が輝き始める。ボードにしがみついていた子が、何度もトライするうちに立ち上がって両手を広げ、胸を張る。
「I can too!」 僕だってできる!
「An ocean of possibilities !」 海はなんでも叶えてくれる!
その光景は本当に感動的で、見る者まで歓喜の涙をしてしまう瞬間だ。
ほらね、一人で泳げてるでしょ!
ある車椅子のご婦人は、
「普段は一人で外出することすらないの。でも月に一回のこの日だけは思いっきりアウトドアライフを楽しむのよ。この日だけは私に車椅子は必要ないの。自由なのよ」
と、ライフジャケット姿で、上手にプカプカ泳いでいる。車椅子に座りっぱなしだと、背骨や腰に重い負担がかかるが、海の中だと浮力で身体が軽く、波や水圧で全身がほぐされる効果もあるのだという。
ダウン症のちびっこも海が大好き
ハワイで初めて、パラリンピック。スポーツクラブに認定
中には、アクセスサーフでサーフィンやカヌーの魅力にはまり、世界的な障がい者スポーツ大会に出場するようになったメンバーもいる。アクセスサーフも2012年、ハワイで初めてのパラリンピックスポーツクラブに認定されている。現在参加者は毎回80〜90人、ボランティアは200人以上に上る。代表ディレクターを務めるCara(カーラ)さんは、
「システムを確立するまでが大変でした。車椅子で砂のビーチに入るだけでも工夫が必要です。私たちは軍用の工業用マットを敷いてエントリーします。このマットを常設で敷いて、障害者が自由に海で遊べるよう、バリアフリーのビーチを増やすよう、州政府にも働きかけています。ワイキキやアラモアナ、ハレイワなどでやっと導入され始めていますが、まだまだ足りません」
始まりの説明やお祈り
ボランティアは担当ごとに、色分けされたラッシュガードを着ている。例えば陸からビーチまでの移動を手伝うチーム、水際でサーフボードやカヌーの出し入れをするチーム、水泳を楽しみたい人の泳ぎをサポートするチーム、一緒にサーフィンをするチーム、そして全体をコーディネイトするチームなどだ。見ていると、リレーションが実にスムーズ。
秋香ちゃん、サーファーのマリちゃんとペアで波乗り!
「一緒にサーフィンをする人は、サーフィンの技術に加え、ライフガードの専門知識や訓練など高いスキルが必要です。知的障がいの人達とのコミュニケーションの方法も学びます」
この海の日の他にも、プールでのリハビリテーションや、治療教育プログラムなど、年間を通じて障がい者のために尽力している。
「オアフ以外の島にもブランチを増やして、活動を広げていきたいですね」
と、カーラさん。
左、代表のカーラさん
アクセスサーフ沖縄も合流、波乗りの本場で初サーフィン!
今回は沖縄のアクセスサーフのメンバーも合流。車椅子の大学生、秋香さんは初めての海外旅行、初めての本場ハワイでのサーフィンだった。
「ホワイトプレインズビーチの波を見た時はどん引きしました。沖縄の北谷(チャタン)や宜野湾(ギノワン)にはこんな波はないから。サーファーのマリさんにスルスルスルーって、あっという間に沖まで連れて行かれて、1本目、途中で落ちちゃって。そうしたらマリさん拾ってくれなくて(笑)、ああ自分で浮いて泳がなきゃなんないんだ、さすが本場だなあって。でもすぐ慣れて面白くって、長い波に5本乗れました」
またエントリーしたいとご満悦。沖縄アクセスサーフ代表の音野太志さんは、
「僕は日本でライフガードをやっていて、16年前からノースショアのウォーターパトロールの大会にも呼ばれていたんですね。琉球大学で海浜を生かした教育の研究もしていました。それで6年ほど前にハワイのアクセスサーフと出会い、参加者とボランティアがアロハな精神で信頼しあって楽しんでいる様子に感動しちゃって。すぐ、友好契約をして沖縄で発足しました。海やサーフィンが好きな人だけの集まりではなく、福祉や医療などの専門家も加えたプロ集団であることが素晴らしいです。今回は主要メンバーと来て、役割分担のシステムなどをじかに見ながら、沖縄の活動に生かそうと思っています」
さらに交流を深め、ハワイから沖縄に来てもらえるようになりたいと話していた。
オキナワアクセスサーフ ボード持っているのが代表の音野さん
半日、参加者やボランティアと一緒に過ごして思った。海はつくづく偉大だ。海は心や体のハンディキャップを忘れさせ、実際に癒してくれる。環境を整え、訓練を受けたボランティアがサポートするなら、海はそのポテンシャルをもっともっと発揮して、障がいのある人たちを自由に生き生きとさせてくれる。希望を与えてくれる。An ocean of possibilities !
あなたもアクセスサーフのサポーターに https://www.accessurf.org
(取材・文 奥山夏実 / 日刊サン 2017. 9. 26)