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日本に住む両親と祖母、夫と私の5人で久しぶりにお盆休みを利用して旅行することになった。行き先は友人の住むマカオ、香港。もともと、旅行大好きな家族だが、私と夫がNY在住でなかなか予定が合わなかったり、その上、どうしても年齢を重ねる毎に遠方へと出掛ける機会も少なくなってきた。  

マカオ、香港の旅は久しぶりに家族揃っての海外旅行。ちょうど、祖母が93歳になったお祝いもかねて数カ月前から計画していた。日々、仕事で忙しい両親もこの旅行を励みに、とても楽しみにしていた。  

 

待ちに待った出発前日。お墓参りへと出掛けた先でのこと。  

叔母の車から降りて来た93歳になる祖母が、ひとり、足早に駐車場を歩き出した。満車で、空きが出るのを別の車に乗って待っていた私の遠く前方を、祖母がすたこら直進して行く。え?! 叔母を待たずにひとりで歩いているその姿をみて、何だか、嫌な予感がした。車を横に停めて駆け寄ろうとした次の瞬間、見たくはない光景を見てしまった。そして、思わず声を上げていた。 「おばあちゃんがーっ!!  落ちた!!!」  

道の段差になっている部分に気づかず、高さ50センチほどの場所から急に姿が消えた。急いで走って行ったら、道の下で祖母が転がっていた。慌てて起こしたのだが、頭や腰を打ったと言う。あぁぁ…。  

骨折していないだろうか、ちゃんと歩けるのか?大丈夫なのか??あれだけ家族で楽しみにしていたマカオ香港の旅行が一瞬にして夢に変わったように思えた。しかし本人は、頭をさすりながら、けろっとして笑っていた。心配する私を横に、こんな一言。

「上手いことこけることができてよかったわ〜!ご先祖様がお守りくださったお陰や!」  

 

祖母の楽天思考に私も安堵の気持ちが押し寄せて、気づくと結局は一緒になって笑っていた。93歳という年齢、そしてあの落ち方を考えると無傷で無事だったことが本当に信じられない。祖母が言ったように、ご先祖様がお守りくださったとしか思えない。日々、目にはみえないところでこうやって見守ってくださっているということをまた思い知らされた出来事だった。  

何はともあれ、今から香港に向けて出発する。93歳、楽天思考の祖母との旅は、どのようなサプライズが待ち受けているのだろうか。  

日々、感謝。

 

 

(日刊サン  2017/8/16)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

www.chizuomori.com