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前回は施主と工務店(コントラクター)との間の契約書についてご紹介しました。意外と知られていない施主の責任や建物の保障について説明しましたが、今回は施主と建築士の間の契約書についてご紹介します。

 

契約書の種類  

工務店との契約書はあまり差異がなく、AIAのフォームが使われることが多いとお話しました。しかし、建築士との契約は、工務店と比べ取引金額がかなり少ないこともあり、そもそも契約書を結ばない場合や、設計事務所が独自に作成した簡易な契約書で済ますことが多いのです。  

実際、私も設計を請け負う際にはAIAの契約書を使わず、その都度依頼内容も踏まえた上でよりわかりやすく書き直した独自の簡易契約書を使用しています。それでも、基本的な内容はどこもAIAのものをベースにしているので、大体似たような内容となっています。

 

工務店との関係性  

建築士と施主との契約書の中で最も変わっている点は、契約の当事者ではない第三者(工務店)が大きく関わってくる点です。建築士が描いた図面で、実際工事を行うのは当然工務店ですし、工務店の選定や見積もり、また工事進行時、終了時と一貫して建築士と工務店は密に仕事をします。ただし、建築士はあくまで施主の代理人として動くので、工務店と建築士の間に契約書は存在しません。よって、施主と建築士の間の契約書に工務店についての事項が数多く記載されています。

 

設計の順序  

建築設計はいきなり施工図面を描くのではなく、段階を追って進めていきます。最初の段階はSchematic Designと呼び、漠然とした部屋の配置や大きさ、全体のデザインを決めていきます。施主から大まかなデザイン面で合意が得られると、次の段階であるDesign Developmentに入ります。この段階では、もう少し細かく建材やキッチンのキャビネットのデザイン、仕上げ、電気・機会図などを決めていきます。  

それらがすべてが決まると、最後にConstruction Drawingsに取り掛かります。この段階になると、構造計算から屋根や床のフレーミングや、各種詳細図面を仕上げ、それらの図面をもとに工事ができるような状況まで仕上げます。順序立ててより詳細に図面を仕上げていくので、逆に最終段階に入ってから部屋の配置やデザインを変更することは非常に困難になり、多くの場合追加料金を請求されてしまいます。このようなことにならないためには、建築士との打ち合わせ等すべての意思決定の場に、関係者を出来る限り同席させることが最も大切だと思います。

 

 

(日刊サン 2016/2/17)

 

 

 

鵜飼 高生 Takao Ugai 建築士・AIA・LEED AP・博士(建築)・家庭塾長 Focus Labo LLC 代表取締役

Email: [email protected]

明治大学建築学科卒業後、ハワイ大学マノア校で建築の博士号を取得。日米両国での建築設計実務経験がある、経験豊富なハワイ州登録建築士。