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WIN-WINでトラブルを解決するからすばらしい! 「メディエーション」を知っていますか?

NPO若葉ネットワークの招きで行われた演奏会とお楽しみ合唱会

 

 

尺八とピアノの異色デュオ、ハワイでボランティア演奏と合唱会!  

この春、ちょっと珍しいデュオが、ボランティア演奏のためにホノルルを訪れていた。尺八奏者の水野修次郎さんと、ピアノ奏者の春山由美子さんだ。  

お二人は“若葉ネットワーク”や“木曜午餐会”などのシニアクラブや、デイケアセンターなど4カ所で、合唱会と演奏会を催し、大変喜ばれた。木曜午餐会では、会の設立が来年100周年を迎えるため、その記念ソングの作曲を春山さんに依頼したほど親交を深めた。  

後日帰国した水野さんと春山さんの元には、ハワイのシニア達から、「懐かしい日本の歌をたくさん歌えて楽しかった」、「来年も是非来てほしい」という礼状やラブコールが相次いだ。  

 

春山さんも麗澤オープンカレッジの受講生だった

「ハワイでは、大好きな音楽で皆さんのお役に立ててうれしかったです」

 

長く音楽教師を務めてきた春山さんは現在日本で、高齢者の合唱団を主宰している。5年前から水野さんとのデュオも始め、東日本震災の被災地などでもボランティア演奏会を催してきた。だが、海外でのコンサートは今回のハワイが初めて。和楽器と洋楽器のコラボを喜んでもらえるか、選曲は楽しんで歌ってもらえるが、実はドキドキハラハラのハワイ上陸だったんですよ、と話す。

「洋楽器と和楽器は音楽の成り立ちからして違います。西洋音楽の場合、拍子によってリズムが決まっていますよね。でも尺八の場合、その場の雰囲気や、演奏者の思いで拍子が変わることも少なくありません。さらに音色や音階も、息使いで変わります。アドリブもありなんです。だから合わせるのが大変。そのかわりお互いの演奏がぴったり合うとすばらしい、ジャズのライブみたいな生き生きとしたデュオができるんです」  

確かに、水野さんの尺八演奏を聴いて驚いた。西洋音楽は音と音とがぶつかり合いながら奏でられるが、尺八は竹藪を流れる風のよう。音なのか波動なのか、ピアノの音の間をすり抜けていくような音色なのだ。ドでもない、ミでもない、もっと流動的な、自然界から生まれたような有機的な音色。

「尺八の音色は無限と言ってもいいほど多いですからね。僕は6寸から2尺3寸まで、長さの違う尺八を8本持っていて弾き分けています。息を吹き込む角度でも音は変わるし、穴の塞ぎ方でも変わります。指をヒラヒラさせて、打楽器みたいな音色も出せるんですよ」

水野さんは日本尺八連盟の師範で40年以上、演奏活動を続けている。

「同じ音程でも違う音色にできるし、音を途中から曲げることもできる。きれいな音の前にわざと汚い音を入れてみたりね。変幻自在というか臨機応変というか、ファジーというか、良いと書く方のいい加減なんです(笑)」

 

尺八は水野修次郎さん、ピアノと合唱指導は春山由美子さん

 

水野修次郎さんの本業は、メディエーションの専門家

飄々として自然体の水野さんには、なんだか尺八と共通するところがあるが、本業は心理学の博士だ。臨床心理士として、アメリカでのカウンセラー経験もある。著書は『争いごと解決学練習帳』、『よくわかるカウンセリング倫理』などなど。現在は立正大学や(財)モラロジー研究所の教授をする傍ら、麗澤オープンカレッジで、シニア向けの心理学の講義もしている。先日、千葉県の南柏にあるカレッジを訪ねた。

「現代は人類史上初の、超超高齢化社会です。昔の年寄りは地域社会の重鎮で、ご意見番として頼もしい存在だった。でも今の日本では、地域社会のコミュニティそのものが崩壊してしまいました。年寄りを大切にする風潮も薄れちゃった。ハワイにはオハナという、血縁じゃなくても家族のようにつながり助け合う、コミュニティがまだ残っているそうですが、日本は風前の灯ですよ」  

じゃあ、仕事をリタイアしたシニア世代の地域社会における居場所はないのか? 現代のシニアは、60代、70代と言ってもまだまだ若く、社会貢献できる知識も体力も十分なはずなのに。

「そう、自分自身の意識としては、実年齢の8掛けくらいのお年頃でしょうね」  

実年齢が65歳でも、気分は52歳!

「はい、僕も8掛けの気分ですから(笑)。そういうシニア世代にとって、心理学を学ぶのはお薦めです。快適に生活できるスキルが身につくんですよ。人間関係についての心理学とか、生涯発達の心理学とかね。とてもインタレストで、ポジティブな生活に役立ちます」

 

シニアの人生経験が役立つ、メディエーターの役割。

たとえば?

「シニアの社会貢献です。現代はコミュニティが崩壊しているから、ペットの啼き声など、隣近所で様々なトラブルが発生して、人間関係が難しいでしょう」  

騒音問題、ゴミの出し方、放置自転車、マンションならば自治会の役員問題……

「当事者間で解決するのが難しいトラブルを調停するのがメディエーションで、調停できるスキルを持った人をメディエーターと呼んでいます。これは裁判所の調停員なども勉強しているスキルです。たとえば日本人は離婚をする場合、アメリカ人のような裁判は好みません。協議離婚が80%と大半で、裁判による離婚は1%に満たない程度です」  

協議離婚の場合に第三者として間に入ってくれるのが調停員だ。

「家庭内でもね、たとえば兄と妹が好きなオレンジが1個あったとする。親は半分個して食べなさいというのに、2人は譲らず1個丸ごと欲しいと喧嘩が始まる。そんな時どうしますか?」  

ジャンケンで勝った方とか?

「いやいや、それではWin-Loseになって、お互い気持ちよく納得できません。解決するにはまず、どうして1個丸々欲しいのか、兄と妹に聞くことから調停は始まります」  

双方の言い分をニュートラルに“傾聴”することが大切と、水野さん。

「実は兄は、オレンジをスケッチしてから食べたかった。妹は、オレンジを食べた後、皮でママレードを作りたかったんです。ならば、お兄ちゃんが先にスケッチをする、終わったら中身は半分こして食べ、食べ終えた皮は妹にあげる、これがWin-Winの解決方法です」

 

メディエーションのクラス。水野先生の、寄り道脱線ばなしも大ウケ

 

夫婦関係や、自分自身の内面も客観視できるようになる。 

トラブルを解決するだけでなく、当事者同士のポジティブな相互理解をも促すことのできるメディエーションなら、殺伐とした現代社会の人間関係の中で、潤滑油のような存在となれるかも。

「そのために心理学的なIPI分析という手法を用います。Issue(イシュー:争点)、Position(ポジション:立場・主張)、Interest(インタレスト:要求)の頭文字をとった分析方法です。これを用いると、夫婦関係や自分自身の生き方も客観視でき、快適になりますよ」

水野さんのクラスに参加している受講生達は、ボランティアや地域貢献に積極的に携わっている人が多い。調停の事例は身近なできごとだ。たとえばエレベーターのない団地が住民の高齢化とともに過疎化して、自治がうまくいかない問題など。ディスカッションの中にも、IPI分析の手法が取り入れられていて、理解が深まりやすかった。  

水野さん、次にハワイに来る時は、尺八演奏だけでなく、メディエーター養成講座も開いてください!

 

(取材・文 奥山夏実)