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動物と触れ合うことで生まれる癒しの効果を用い、心身に何らかの症状を持つ人の治療の手助けをしたり、生活の質(QOL)の向上を目指すセラピーを「アニマルセラピー」と言います。 アニマルセラピーは「動物介在療法」と「動物介在活動」の2種類があります。「動物介在療法」は英語で「Animal Assisted Therapy(AAT)」と言い、病院などで専門的な知識を持った人が治療の補助として行うもの。「動物介在活動」は英語で「Animal Assisted Activity(AAA)」といい、対象者のいる施設などに動物を連れて行き、レクリエーションやワークショップを通してセラピーを行い、QOLの向上を目指すものです。心身の健康を維持したい人、がんを治療中の人や心臓に疾患のある人、長期にわたる治療が必要な病気やケガのある人、心身に障害のある人、認知症の人、PSTDやうつ病などの精神的な問題を抱える人など、さまざまな人に適用されます。

 

ペットセラピーとは

犬や猫、ウサギなど、好きな動物や飼っているペットが側にいてくれると気分が落ち着くという経験をしたことのある方は多いと思います。このように、身近な動物と触れ合うことで心身に何らかの効果を得ることを「ペットセラピー」といいます。  

特に「セラピードッグ」と呼ばれる犬たちは、セラピーに従事する動物たちの中で最も幅広く活躍しています。セラピードッグが心身に何らかの治療が必要な人々と寄り添って毎日を過ごすことで、一緒に過ごした人のうつ状態が改善したり、歩けない状態から歩けるようになったりするといった具体的な効果があることが分かっています。

 

【10の利点】

アリゾナ州のチャリティー組織「Pets For The Elderly Foundation」 (www.petsfortheelderly.org) のホームページに記載されている記事の中で、ペットセラピーの具体的な利点について、以下の10項目が挙げられています。

1.血圧と心拍数を下げる

2.病院へ通う回数が21%減少する

3.うつ状態が減少する

4.社会生活が活発になり、友達が作りやすくなる

5.高齢者が行動的になる

6.ペットが無償の愛を注いでくれる

7.親しい人を亡くした傷を癒してくれる

8.孤独を癒してくれる

9.高齢者の自分自身へのより良いケアを促す

10.安心感を育む 

 

【具体的な効果】

ストレスホルモン「コルチゾール」の濃度を下げる  

ペットをなでたり触ったりして触れ合うことで、副腎皮質から分泌されるホルモン「コルチゾール」の体内濃度が低くなります。コルチゾール濃度の適度な低下は、免疫力の向上、高血圧の予防、成長ホルモンを分泌させるなど、さまざまな働きがあるため、結果的に寿命を延ばすと言われています。可愛いと思う動物を見ているだけでも、コルチゾール濃度が低下することが分かっています。

 

幸せホルモン「オキシトシン」を分泌する  

ペットと一緒にいると、脳下垂体から、ストレスを軽減するホルモン「オキシトシン」が分泌されます。オキシトンシンは哺乳類だけが持つホルモン。血圧や心拍数を下げたり、情緒を安定させて他者への関心を促すことで社会性を高めるといった作用があると言われています。

 

やる気の分子「ドーパミン」の分泌量が増える  

ペットと触れ合うことで、神経伝達物質「ドーパミン」の脳内分泌量が増え、ペットがいない状態よりも意欲が増し、幸福感を維持できると考えられています。また、ドーパミンの不足により発症するパーキンソン病の予防も期待できます。

 

副交感神経が優位になる  

ペットを飼っていると、リラックスすることで「副交感神経」が優位になりやすくなり、自律神経を整えて気分を安定させたり、不眠の解消などに効果があると言われています。

 

社会性を育む  

犬を飼う場合は、毎日の散歩が外出のきっかけになることで引きこもりを予防したり、犬を連れていることがきっかけで他者との会話が生まれるなど、社会性を育むことも期待されます。

 

高齢者の通院回数を少なくする  

1990年、アメリカの保健維持組織(HMO)が、犬を飼っている高齢者と飼っていない高齢者を対象に、病院へ行った回数について1年間の調査を行いました。伴侶や友人の死などで喪失感やストレスを感じている人のうち、犬を飼っていない人の通院が10.37回あったのに対して、犬を飼っている人は8.62回でした。また、喪失感やストレスがあまりない人の内、犬を飼っていない人の通院が8.38回だったのに対して、犬を飼っている人の通院回数は7.75回でした。この調査結果から、高齢者が犬と暮らすと病院へ行く回数が減少するということへの信ぴょう性が高まりました。

 

ペットセラピーの歴史

1792年、イギリスのヨークシャー州に設立されたヨーク収容所という精神障害者の施設で、治療のためのペットセラピーが世界で初めて試みられました。ヨーク収容所の中庭にウサギやニワトリ、アヒルなどを放し飼いにし、患者に飼育させることを治療の一環としていました。  

1860年代には、イギリスのロンドンにある世界最古の精神科病院ベスレム病院で、患者たちと小動物を触れ合わせるというレクリエーションが行われていました。また、1867年、ドイツのビーレフェルトに世界で初めて設立されたてんかん患者の施設、ベーテルでは、患者に犬や猫などとコミュニケーションをさせ、症状の改善を図っていました。  

第二次世界大戦中の1942年には、アメリカのニューヨーク州にあったボーリング空軍療養復帰病院で、心身に傷を負った兵士の回復を補助するプログラムの一環として、農場での家畜の世話や、シェパード犬との触れ合いなどが取り入れられていました。  

1950年代に入ると、アメリカを中心にペットセラピーを治療の補助として取り入れる病院や施設が増えていき、それに伴ってペットセラピーが認知されていきました。

 

フロイトとチャウチャウ犬のジョフィ

精神分析学の父、ジークムント・フロイトは「犬には人の気持ちを正しく理解する特別な能力がある」として、患者の診察時に、チャウチャウ犬の「ジョフィ」を同席させていました。フロイトは、ジョフィが患者の側に座っているときは患者がリラックスしている合図、ジョフィが診察室の床に寝そべっているときは患者がナーバスになっている合図、診察を終わらせるタイミングはジョフィが伸びをする時というように、ジョフィの行動を参考にして診察を進めたといいます。

Sigmund Freud(1856〜1939)

 

いち早くペットセラピーの効果に気づいた ナイチンゲール

近代看護教育の母、フローレンス・ナイチンゲールは、1859年、『看護覚え書き』に「小さなペットなどは、病人、とりわけ長期の慢性病の病人にとっては、こよなき友となることが多い。かごの小鳥は、同じく何年間も閉じ込められている病人の唯一の楽しみだ。彼が動物に餌を与えたり、身の回りの世話をすることができれば、励まされるに違いない」と記しています。フロイトのエピソードと合わせ、19世紀〜20世紀前半のイギリスでは、既にペットセラピーに何らかの効果があると認められていたことが伺えます。

Florence Nightingale(1820〜1910)

 

【オアフ島で動物と触れ合える施設 】

ハワイアン・ヒューメイン・ソサエティー Hawaiian Humane Society

2700 Waialae Ave. ☎︎356-2200 hawaiianhumane.org

保護された犬、猫を中心に、鳥、ウサギ、モルモットなど、さまざまな動物に出会える施設。気の合う動物がいれば里親を名乗り出ることもできます。ボランティアも常時募集しています。 

 

〜 ロサンゼルス国際空港の取り組み 〜

ロサンゼルス国際空港(LAX:www.lawa.org)では「ペッツ・アンストレシング・パッセンジャーズ・プログラム(PUP)」が導入されています。  

このプログラムは、スタッフが、空港のロビーに犬を連れて行き、飛行機を待っている乗客に、犬と触れ合うことで搭乗前の緊張を緩和してもらおうという取り組みです。  

「Pet Me」と書かれたジャケットを着た犬とロビーで触れ合った後、スタッフが連れている犬の写真入りの「名刺」を渡してくれます。これを渡してもらうことで、飛行機に乗ってからも犬と触れ合ったことを思い出し、セラピー効果が続くというわけです。  

同空港では「Don’t Pet Me」と書かれたジャケットを着た麻薬犬も働いています。犬たちが、いかに人間のよきパートナーであるかを思わせる光景です。

 

 

ホースセラピー(乗馬療法)

ホースセラピーとは、乗馬や馬の世話をすることで馬とコミュニケーションをし、身体機能と精神機能を共に向上させるというセラピーです。乗馬という全身運動を行うと同時に、馬と触れ合うこともできるため、アニマルセラピーの中では心身両面へのセラピー効果が最も高いと言われています。

 

ホースセラピーの効果

体が柔らかくなる  

乗馬は、体の力を抜いて馬の動きについていくことがポイントになるため、乗馬が上達するにつれて体が柔らかくなります。特に股関節が柔らかくなることで、足の可動域が広くなり、下半身が動かしやすくなったり、血流がよくなるなどの効果が期待されます。

 

バランス感覚の向上  

馬に乗る時は坐骨でバランスをとるため、練習を重ねることで下半身のバランス感覚が向上していきます。そのため、起立や歩行が困難な障害者のセラピーにも用いられています。

 

温熱効果  

馬の体温は38度前後。人間の体温よりも若干高いため、ぬるま湯で半身浴をするような感覚で、心身の緊張を解く効果があります。

 

脳神経を刺激する  

乗馬をすると、脳が馬の動きを認識し、体が馬の動きに合わせていろいろな方向に移動しながらバランスを取るように努めます。これが脳神経を刺激し、鬱、不安、焦燥感、恐怖心、攻撃心などを減少する効果があると言われています。

 

社会性の発達  

馬との信頼関係を築くことで、社会性を発達させ、自己評価を高めます。

Core Ability Therapy

www.coreabilitytherapy.com/horse-assisted-speech-therapy.html

 

紀元前400年頃から行われていた ホースセラピー

ホースセラピーの歴史は古く、始まりは紀元前400年頃にさかのぼります。その頃のギリシャの文献に「リハビリ中の負傷した兵士に乗馬をさせるセラピーがあった」という記述があり、これが世界で最初に行われたアニマルセラピーと言われています。  

1875年のフランスでは、乗馬が神経麻痺の患者の回復に有効ということが発見され、1950年代に入ると、ヨーロッパやアメリカで心身に障害を持つ人に対する療法としてホースセラピーが用いられるようになります。日本では、1970年代にドイツから伝わり、その後徐々に認知されていきました。

 

馬と人の歴史

馬の祖先は、5500万年前、北米に生息していた「エオヒップス」という体高30センチほどの小さな動物です。このエオヒップスが進化し、100万年前に現れた「エクウス」という体高1メートルの動物が、現代の馬の祖先と考えられています。  

2万年前にクロマニヨン人が描いたフランスのラスコー洞窟の壁画には、肉や皮を採るための狩猟の対象として馬が描かれています。肉や乳を利用する目的で馬が家畜化したのは、紀元前3500年頃の中央アジアが最初と言われています。紀元前1500年頃には、移動や輸送、軍事用としても用いられるようになりました。  

日本へ馬が伝わったのは3世紀中頃(弥生時代末期)で、5世紀初め(飛鳥時代初頭)には乗馬の風習があったことが分かっています。

ラスコー洞窟の壁画に描かれた馬

 

【オアフ島でホースセラピーを受けられる施設】

セラピューティック・ホースマンシップ Therapeutic Horsemaship

乗馬レッスンやキャンプなどを通して馬と触れ合い、馬をパートナーとして認識することで、心身の強化を目指す施設です。

P.O. Box 138 Waimanalo  ☎︎342-9036 thhwaimanalo.org

ハート・ホーシス Heart Horses

きめ細やかなセラピーで定評のある施設で、グループでの参加も可能です。ボランティアも常時受け付けています。

Sunset Raunch 59-777 Pupukea Rd, Haleiwa

 

 

 

<参考URL>

日本アニマルセラピー協会 :animal-t.or.jp/animal-assisted-therapy  

ナーシングプラザ.com : nursing-plaza.com

Reuters : reuters.com   

The pets for the elderly foundation : petsfortheelderly.org

楽園綺譚 ameblo.jp/rakuenkitan

<参考文献>

『看護覚え書 看護であること看護でないこと』 フロレンス・ナイチンゲール/湯槇ます/薄井坦子 現代社

2011 Wisdom JP, Saedi GA, Green CA.

Another Breed of “Service”

Animals: STARS Study Findings about Pet Ownership and Recovery from Serious Mental Illness. 

The American journal of orthopsychiatry. 2009;79(3):430-436. doi:10.1037/a0016812.