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マンハッタンの楽しみのひとつ、ジャズライブ。昼夜問わず毎日、地下鉄の構内や公園、路上、ヨットの上やジャズクラブなど、至る所で様々なレベルのバラエティー豊かなジャズ生演奏を聴くことができる。  

ジャズを通して、ご縁が広がることもある。夫、アダムのアートスタジオでお気に入りのジャズをかけて創作していると、ジャズの音をたよりにふらりと一人の黒人女性が入って来たことがあった。「あなた、ジャズ好き?」と聞かれたので、好きだとこたえると、その女性は、とても嬉しそうに自分の父親が、なんと世界的に有名なジャズサクソフォーン奏者のクリフォード・ジョーダンだと教えてくれた。奇跡が降る街NYに居ると、身近にこういったことが頻繁に起きる。  

 

先日、ご縁をいただいたのはトランペットプレイヤーの大野俊三さん。トップの中のトップたちがひしめき合う世界最高峰、アメリカのジャズ界において、大変権威ある賞を何度も受賞し、ジャズ界で一目置かれ注目を常に浴びている人だ。  

夫、アダムの幼なじみでギルエヴァンスを父に持つ、同じくトランペットプレイヤーのマイルスが、自身が率いるギルエヴァンスオーケストラのジャズライブに私たちを招待してくれた。そこで大野さんと直接出逢えた。  

大野さんのソロ演奏がはじまると、彼の放つ音色のバイブレーションにすっかり我を忘れてしまう程虜になった。  

命をかけ、一生をかけて極める道を進んでいる人が生み出すもの、創りだすものや表現には、言葉を越えた、人の心を強く動かす、圧倒的なパワーが宿っている。  

その後も、10人を越える奏者が一同に演奏し、それぞれの持ち味を最大に生かしながらメロディーの中で即興を創り上げていく。重なったり、離れたりしながら、一つに調和して解け合っていく。即興で生まれるものは、一生に一度。あるのは今、この瞬間のみ。  

 

私はふと、ジャズと人生を重ね合わせてみた。  

人生も、瞬時の受け入れと変化で築かれていく。身に起こることのすべてをコントロールすることはできない。しかし、ジャズの即興で思いがけない良い音楽が生み出されていくのと同じように、人生の即興を愉しむのはどうだろう。  

型にとらわれるばかりでなく、柔軟な感覚を大切に、自分の持ち味を思うままに存分、自由に発揮していくことで、未知なる可能性と巡り合える。  

ギルエヴァンスオーケストラの即興は、自分の中で眠っている、まだ開けたことのない新しい扉を開けてみたいそんなワクワクした感覚を思い出させてくれた。

 

 

(日刊サン  2017/5/24)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

www.chizuomori.com