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旅をしていると、世界中から集まった面白い価値観をお持ちの方とばったり出会い、話をしたり、共にひとときを過ごすことになったり。全くの赤の他人から、時には、一生の友へと変わることだってある。  

 

今から、16年前のはなし。「よし、ニューヨークへ行こう!」と思い立ち、衝動的にひとりNYへ。右も左も分からぬまま、ただただ街のエネルギーの凄さに圧倒されながら、キョロキョロしていた私に、声をかけてくれた一人の女性。オシャレで上品な洋服をさりげなく身にまとい、すらりと背が高く、その美しさから圧倒的な存在感を醸し出している50代はじめ頃の金髪女性の横には、カッコいいワンちゃん。絵に描いたような光景。  

何処へ行きたいのかと聞かれた私は、バックパックから詳しい住所を取り出すと、お散歩ついでに目的地まで一緒に歩いてくれるという。見知らぬ女性と旅行者のわたし。どこから来たのか、今何をしているのか、出会ったばかりの私たちは、お互いのことを何一つ知らない。  

まず、分かったのは、彼女は若い頃パリに住んでハイブランド専属のモデルとして活躍をしていたこと。納得…。人は、今ままでの生き方が滲み出る。特別で極上のオーラが出ていた。  

一緒に歩いたのは、たった10分ほどの短い時間だったけど、別れ間際に彼女はこう切り出した。「私の人生の中でひとつだけ、後悔していることがあるのよ。」  

完璧で何一つ欠点のないように見えるその女性の口から出た意外な一言に、私は身を乗り出して興味津々、その理由を聞いてみた。  

「パリに不動産を買わなかったこと…」  

え?! 不動産ですか? もちろん理由は聞いたけど、長くなるので割愛しますが、当時、不動産に興味のかけらもなかった私が、彼女の放ったこの一言があまりにも衝撃で、このことがきっかけでその後の人生が変わることに。  

 

パリコレ女性との出会いから10年後。  

頑張ってお金を貯めて、はじめての不動産をワイキキに購入。そこから、数年後には主人とハワイに住むことになり。そして、今はまたNYへ。  

道で出会った一人の女性と過ごした、私の人生の中のたった10分の経験が、人生に大きく影響するなんて、当時の私には想像すらできなかったこと。だから、人生は面白い。  

 

今日も、どこで、どんな出会いが待ってくれているのか…。楽しみはつづく。

 

 

(日刊サン  2016/10/10)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

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