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NYCから日本へ一時帰国するため、先日、夫のアダムと飛行機に乗っていた時のこと。JFK国際空港を離陸してまだ10分も経たないうちに、私のすぐ後ろの席に座っていた6才くらいの男の子が、後ろから私の席を連打してきました。大人も注意しません。  

14時間という気の遠くなるようなフライトはまだ始まったばかり。30分たっても止む気配もない状況を見かねたアダムが、男の子の祖父に声をかけてくれて、やっと平穏が戻りました。  

いつも優しいアダムは、その後バックパックから何かを取り出そうとゴソゴソ。出てきたのは、グミのパッケージ。それを男の子にそっと手渡しました。思いがけないプレゼントを前に、男の子の表情はみるみる明るくなり、中国なまりの慣れない英語で、“Thank you”と満面の笑み。  

男の子が発した“Thank you”がやけに心に響き愛おしく、私の気持ちも一気に穏やかになりました。その後、30分もしないうちに、またシートの連打が再開されるのですが(笑)男の子の可愛い笑顔を見た後は、不思議と全く気にならなくなりました。  

 

実は、このグミには少し特別なストーリーがありました。  

帰国前日、アダムと近所にあるマディソンスクエアパークのベンチに座りリラックスしていた所、決して裕福とは思えない身なりの黒人女性が、5才くらいの幼い息子を手に引いて、片手にはグミの袋が12袋くらい入ったお菓子の箱を抱え、手売りにまわってきました。  

ベンチに座っている一人一人に一生懸命声をかけていましたが、ほとんどの人は無視です。  

それでも私たちは、その親子からグミを購入することにしました。理由は、物乞いをするのではなく、きちんとグミを販売してお金と商品を引き換える。これから自立して生きて行く上で大事な起業家精神を幼い男の子に教えているお母さんの姿に感銘を受けたからです。  

お母さんにお金を渡すと、男の子が無邪気な笑顔で“Thank you!”と言って、嬉しそうにグミを選んで私たちに渡してくれました。  

 

グミを受け取ったとき、私は何か忘れてはならない、とても大事なものも一緒に受け取った気がしました。  

その、特別な一袋のグミが公園の男の子から機内の男の子へ。  

マンハッタンの男の子と、中国の男の子。二人の住む世界はまるっきり違う。文化も、国も全然違うけど、“Thank you”ありがとう、という感謝の言葉は、国も文化も遥かに超えてひとつに繋がることができる。  

そして、私たちを幸せな方へと導いてくれる魔法の言葉だと、改めて、深く実感した出来事でした。

 

 

(日刊サン  2016/11/7)

 

大森 千寿
香川県生まれ。一人っ子。8才の時に韓国ホームステイを経験。12才の夏休みはオレゴン州にホームステイ。16才でオレゴン州のハイスクールに1年間留学。2003年自分探しで訪れたNYで運命の人と出逢い国際結婚。2010年ハワイにホテルコンドミニアムを購入したことがきっかけとなり、ハワイで過ごす時間が増える。現在はアーティストで夫のアダムウェストンのマネージメントをしながらハワイ、NY、日本を拠点に活動中。

www.chizuomori.com