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歯の健康をキープしよう!

人生の楽しみの一つとして欠かせないのが食事。噛んで食べて味わうことの喜びをいつまでも失いたくないですよね。日本もアメリカも平均寿命が延びている中で、歯の寿命を考えることはとても大切。そこで、健康な歯を長く維持するための秘訣をウイリアム・H・フォン歯学博士に聞きました。

 


ウイリアム・H・フォン歯学博士 パシフィック歯科医院 院長

兵庫県神戸市出身。大阪中華学校と神戸マリスト国際学校を経て、ミュージカル「アップ・ウィズ・ピープル」で一年間欧米ツアー。ウエストバージニア州のベサーニ大学卒業(化学学士)後、ニューヨーク大学歯学部で歯学博士号を取得。ホノルル市で歯科医院を開業、またクイーンズ病院に在籍し、歯科医研修医の教育と指導にあたる。38代ホノルル・チャイニーズ青年会議所理事長、52代ハワイ青年会議所会長も務め、国際青年会議所 国際公認トレーナー特別会員、元デールカーネギートレーナー。日本語、中国語(北京語・広東語)、英語が堪能。

 

①歯の主な6つの問題

❶虫歯
●虫歯とは?

口内の細菌が食べ物に含まれた糖分を使って酸を作り、その酸が歯を溶かし、やがて歯に穴を開けた状態のこと。

 

●虫歯の症状は大きく分けると3段階

【1段階】初めに虫歯がエナメル質から内側の象牙質まで広がると、食べ物と飲み物の刺激に少し沁みる。痛みを伴わない場合も。

【2段階】虫歯が神経に近くなると強く痛むことも。刺激が去ると数秒以内に収まる場合と、刺激を取り除いても痛みが長く継続する状態がある。

【3段階】虫歯が神経を侵し、壊死させた場合は一時期痛みが収まる。しかし、歯髄内の壊死した神経・血管が化膿し歯根の先端部分に膿が溜まる状態になり、数週間から何年も経ち、「もう大丈夫!」と思った頃に激痛、または膿が根の先端の歯茎から流れていつも飲み込んでいる状態に!

 

 

●「唾液」と「フッ素」の重要な役割

虫歯から守るため、溶かされた表面を補う“脱灰−再石灰化のサイクル”が繰り返されている。そのバランスを保つ上で大切なのが「唾液」と「フッ素」。

「唾液」は6つの作用で歯を守る!

1.歯を再石灰化するのに必要なリン酸とカルシウムを補う「再石灰化作用」

2.歯を保護する膜を作る「保護作用」

3.口内を酸性から中和する「緩衝作用」

4.細菌の発育を抑制する「抗菌作用」

5.細菌や食べかすを薄めて洗い流す「希釈洗浄作用」

6.免疫グロブリンで細菌から防御する「免疫作用」

 

●「フッ素」に期待できる4つの効果

1.歯の成長時に、フッ化物添加された水道水・食塩(世界50ヶ国以上で添加されているか、自然に含まれている)で摂取、またはフッ化物配合剤を服用すると、エナメル質の組織にフッ素が組み込まれ、「フロロアペタイト」という耐溶解性が強いエナメル歯質になり、歯の表面層全体が虫歯の酸に溶けにくくする

2.歯磨き粉、マウスリンス、歯面塗布によるフッ素が、歯の表面を強化する

3.歯から溶けだしたリン酸とカルシウムの再石灰化を促進する

4.細菌の働きを弱め、歯垢の作る酸の量を抑える

 

●予防のポイント!

◆歯の表と裏をしっかりと歯ブラシで磨く 

◆歯と歯の間はデンタルフロスや歯間ブラシでプラークや食べかすを取り除く

◆フッ素が歯の育成期に歯質に取り入れられるように街の上水道水にフッ素を入れるか、水道水に入っていない場合は小学校卒業年代まで歯科医に処方されたフッ素を服用する

◆フッ素入り歯磨き粉を使う

◆歯科医院での定期検診と口内掃除

◆青少年と幼児は半年に一回のフッ素塗布

◆唾液が十分出るように食べる時は一口30回しっかり噛む

◆唾液腺マッサージを行う(唾液の出る部分=舌下腺、顎下腺、耳下腺を刺激する)

◆無糖ガムを噛んで唾液が出るように促す

口腔乾燥症の場合(薬の副作用や放射線治療などによるドライマウス)

◆人口唾液で足りない唾液を補う

◆フッ素の量が市販歯磨き粉の3.5倍から5倍の薬用歯磨きを使う(要処方薬)

 

❷歯周病

●歯周病とは?

歯垢や歯石の細菌が歯肉を刺激し、炎症を起こして歯茎が腫れ、やがて歯を支える骨を溶かしてしまう、歯肉と歯を支える骨の疾患のこと。歯を失う原因の第一位が歯周病。自覚症状がほとんどないまま進行する場合が多い。糖尿病と密接に関連がある他、心血管疾患リスクを上昇させる(1.14倍~1.75倍)。

 

●こんな7つの症状に要注意!

歯肉炎(初期状態:正しく歯と歯茎の境目を磨けば治せることも多い)

1.歯茎が赤く腫れる

2.磨くと歯茎から出血

3.口臭

歯周炎・歯槽膿漏 (歯槽骨の退化を伴う状態:磨くだけでは治せない)

4.歯と歯の間に隙間ができる

5.歯がぐらつく

6.歯茎が下がる(歯槽骨が溶けて下がり、歯周ポケットもできる)

7.痛み(歯茎の痛み、噛むと痛い、歯茎が下がった部分が沁みる)

 

●予防のポイント!

◆正しい歯磨きをする(歯の根元あたり、歯と歯茎の境目をマッサージ)

◆フロス ・歯間ブラシを使用する

◆定期的な歯科医・衛生士による口内掃除(歯茎に問題のない人で年2回、問題があれば頻繁に!)

◆煙草を止める(喫煙は歯茎の血流を悪くする)

◆血糖値のコントロール(糖尿病は歯茎の血流を悪くする)

◆ストレスを減らし歯ぎしりのクセを治す(歯のぐらつきを悪化させる)

◆歯並びの矯正(磨きにくい場所に歯石歯垢が溜まり、歯茎が悪くなりやすい)

◆問題のある親知らずの抜歯(歯間の骨を溶かし、深い歯周ポケットができ、食べ物が詰まりやすく、虫歯になったり化膿しやすい、)

◆口呼吸を治す(口が乾き、唾液で自浄作用できない)

 

 

❸歯頚部(歯の歯冠と歯根の境目)の欠損
 ●アブレイジョンとは?

歯ブラシによる歯の根元の摩耗(歯茎も一緒に退化)。その原因は、硬い歯ブラシ、力の入れすぎ、横にゴシゴシ磨くから。

正しく歯を磨くことが予防への第一歩! 柔らかい歯ブラシで、歯茎に向けて45度。小さく、丸く、軽く歯茎をマッサージする感覚で!

 

●アブフラクションとは?

歯ぎしりなど噛み合わせる力による歯質の欠損のこと。欠損した所は詰め物をするが、再発を防ぐには、歯ぎしりを和らげるため、就寝時にナイトガードを着用する。

 

❹咬合性外傷

●咬合性外傷とは?

歯の噛み合わせる力によって過剰な力が歯周組織に加わり、歯質、歯ぐきと歯を支えている骨、顎の関節が負傷すること。歯を摩耗し、歯にひび、欠損や破損をおこし、歯のぐらつきや歯周病を進行させ、頭痛、首、肩の凝り、顎関節の痛みにつながることも。

 

●寝ている時に原因が!

咬合性外傷の原因は歯ぎしり、食いしばりなど。寝ている時など無意識に行われていることが多い。ストレスと関連性が深く、特に歯並び・噛み合わせが悪いと悪化しやすい。

 

●予防のポイント!

◆就寝時にナイトガード(日本ではマウスピースとよばれている)を着用する

◆生活上のストレスの軽減

◆カフェインの量を減らす(コーヒー、コーラなど)

◆飲酒を避ける(飲酒後に歯ぎしりは激しくなる)

◆運動をする

◆起きている時に食いしばりなどをしているか自分で意識する。食いしばりに気が付いた場合は舌を軽く歯で噛んで顎の筋肉をリラックスさせる

◆鉛筆など食べ物以外のものを噛むクセをやめ、ガムも避ける(顎の筋肉に食いしばるクセがつき、歯ぎしりもしやすくなる)

◆寝る前に顎関節(耳の穴の前部)を温かいタオル(手で触られる程度の熱さ)で温湿布する

 

❺酸蝕症
●酸蝕症とは?

酸によって歯の表面が溶けて穴があいたり、浸食された状態。

●こんな食べ物、飲み物は注意!

◆炭酸飲料

◆レモンなどの柑橘類などフルーツ  

◆黒酢ドリンク・酢

◆梅干しや酢漬けの食品  

◆マヨネーズ・サラダドレッシング

◆果汁飲料・野菜ジュース

◆スポーツドリンクや健康飲料  

◆ワイン・ビール・酎ハイ ※胃酸はとても強い酸のため、嘔吐を頻繁にすると歯が溶ける

 

●予防のポイント!

◆酸性の強い食品・飲料の過剰な摂取を避ける

◆酸性の強い飲料を飲む時、ストローを使うことで歯を酸で浸すのを避ける

◆ちびり飲み・だらだら飲みなどで長時間酸性の食品や飲料が口の中にとどまるのを避ける

◆一口30回よく噛んで唾液の分泌を促し、歯が再石灰化できるようにする

◆口内に酸が残らないように、酸性の飲料を飲んだ後は、口を水でゆすぐ。

◆酸性の飲料・食品を食べた後は、唾液が再石灰化するのを邪魔しないよう、直後の歯磨きは避けて、30分後に歯を磨く

 

❻知覚過敏

●知覚過敏の症状は?

冷水・熱水・酸・歯磨きなどの刺激に歯が沁みて痛む。 痛みは刺激が止むと和らぐ

 

●原因

◆歯茎の後退による歯根の露出

◆象牙質の露出(歯頚部の欠損、エナメル層摩損、酸浸食、詰め物の欠損等から)

◆歯のひび・亀裂

◆歯の漂白剤

◆虫歯

◆深い詰め物による神経の痛み

◆歯垢・歯石の細菌が出す刺激物質

◆深い歯茎の歯石除去治療や詰め物の後

 

●治療法

◆知覚過敏用歯磨き粉(刺激を通す歯の象牙質の象牙細管をふさぐ)  

◆フッ素

◆グリセリン

◆レーザー

◆ナイトガード(咬合性外傷を和らげ、間接的に知覚過敏を和らげる) 

◆患部を詰める (象牙質に刺激が伝わらない様にする)

◆根管治療 (どうしてもひどい痛みが取れない場合)

 

②残った歯の数が勝負!

❶歯の数が少ないとどうなるの?

ムシ歯や歯周病などにより歯を失う

↓ ↓ ↓

噛む力の低下 → 食事の変化 → 低栄養・栄養バランス の悪化

↓ ↓ ↓

全身に影響 → 運動機能の低下 → 要介護状態 → 衰弱・死

↓ ↓ ↓

脳に影響(認知症など)

 

残った歯の数が少ない人ほど…(統計的に)

◆寿命が短くなる傾向がある

◆認知症の発症率が高い(1.9倍に)

◆転倒する危険性が高い

◆要介護状態になる危険性が高い

◆引きこもりのリスクが上昇

(参照:日本歯科医師会の調査、東北大学調査)

 

❷噛むってこんなにいいこと!

◆肥満予防

◆味覚の発達

◆言葉の発音がはっきり

◆脳の発達

◆歯の病気を防ぐ

◆癌の予防

◆胃腸の働きを促進

◆全身の体力向上

(参照:http://8020zaidan.or.jp/index.html )

 

③健康な歯を維持するために

❶日々気をつけること

食生活では糖分と酸に注意! 食べる時は糖分と酸が口に長時間残らないように気をつけ、食後は水で口をゆすぎ、歯を磨く。酸性のものを食べたり飲んだりした場合は、唾液が再石灰化するのを邪魔しないように、30分後に歯を磨こう!

 

❷予防歯科

定期検診はできれば年に2回。少なくとも年に1回は検査を! 歯の掃除は最低年に2回、歯科で行い、歯石を取り除き歯茎の健康を保つことが大切。

定期検診のメリット:

◆歯の問題の早期発見(虫歯や歯周病を悪くなる前に見つける)

◆問題が悪化する前に早めに治療することで時間も治療費も節約できる

◆自分では届きにくいところの汚れや歯石を専用の機械や器具で取り除いてもらえる

 

〜 ウイリアム先生からのアドバイス! 〜

噛んで食べて味わうことの喜びをいつまでも…。 「かむことだいじ」を実践し健康な歯をキープしましょう!

か)噛むのに大切・歯は残そう

む)虫歯の治療は・早めが大事

こ)こまめに検診・お掃除も

と)糖分控えめ・虫歯を予防

だ)唾液の分泌・よく噛んで

い)いつも優しく・根元を磨き  

じ)時間短く・だらだら飲まず

 

 

取材協力 : ハワイで初めての日本語によるNPO支援団体『若葉ネットワーク』

 http://www.wakabanetwork.org