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あわただしい毎日の中でホッとくつろぐ自分のためのリラックスタイム。そんな時にそっと取り出す琥珀色のかけら、チョコレート。甘くまろやかな記憶を舌の上に残しながら、口の中でふんわり溶けだすチョコレートは自分へのちょっとしたご褒美ですね。

米国で唯一のカカオ産地であるハワイ州。生産量は少ないですが、その品質と希少性でチョコレートファンから「幻のカカオ」と呼ばれているほど。今回はハワイ産カカオについてその実力を探ってみました。

 

ハワイ産カカオについてのナビゲーターは笑顔が素敵なHawaii Agriculture Research Centerの長井千文博士です。


長井千文 博士
Hawaii Agriculture Research Center
Senior Research Scientist
Plant Bleeding / Biotechnology

 

 

カカオに風は大敵 ハワイでの栽培は困難と思われていた

 

チョコレートの原料であるカカオの木が生育するのは、気候でいうと熱帯雨林の地域。中南米やアフリカ、アジアの赤道ベルト、南北20°内で生産され、亜熱帯に近いハワイの気候ではカカオの木の栽培は無理だと思われていました。なぜならカカオの木はとてもデリケート。高温・多湿の地域でしか育たない上、虫媒花であるカカオには風が大敵とされています。特にハワイは貿易風の影響で風がとても強い。ところが、ハワイでカカオの木を栽培してみたら、ハワイの土壌にカカオの木が合うことがわかりました。もちろん風除けの木を植えるなどの工夫は必要ですが、今では、ハワイ島を初め、オアフ島やマウイ島、カウアイ島などでカカオの木が栽培されています。

 

ショコラティエでも入手困難 希少なハワイ産カカオ

カカオの世界生産のシェアの約半分を占めているのは、コートジボワールで、ガーナやインドネシアがそれに続きます。ハワイ大学のHawaii Cacao Survey によると2014年のハワイのカカオの収穫量は、ローストした状態のドライビーンでわずか31,600ポンド。ハワイは世界の生産量からみると、0.1%にも満たない。逆にいうと非常に希少なのです。そのため、ハワイ産カカオはハワイのショコラティエでさえも入手が困難だと言われています。生産量は少ない一方で、その品質についてはかなりの高評価を得ています。

 

2014年、世界の7つの貴重なカカオに ハワイが指定

チョコレートの美味しさの決め手は、まずは良い木から収穫されるカカオであること。つまりカカオのDNA、遺伝子が大切なのです。米国農務省(USDA)とFine Chocolate Industry Association(高級チョコレート協会)が高い品質のカカオの調達と、風味豊かなカカオ栽培を奨励するために設立したHeirloom Cacao Preservation(貴重カカオ保全イニシアチブ)が、昨年高品質の貴重なカカオとして、ハワイのカカオ豆を指定しました。これまでのところ、ベリーズ、コスタリカ、ハワイ、ボリビア、エクアドルの産地で7つの貴重なカカオが指定されています。つまりハワイのカカオの木の遺伝子とそれを活かせる良い環境を持っているということです。Guittard ChocolateやValrhonaなどの高級ショコラティエの幹部を含めチョコレート業界の著名人で構成された判定員の洗練された味覚を用いて、風味豊かな世界のカカオの遺伝子をプロファイリングし、識別しています。

 

 

チョコレートは発酵食品― 発酵の仕方で味に大きな違い

カカオの品質にとって、次に重要なのが、木を育てる環境です。素晴らしいDNAを持ったカカオでも、環境が悪ければその良さを活かすことができません。そして3番目に大事なのはfermentation、発酵の仕方です。ご存知ない方が多いかもしれませんが、チョコレートというのは発酵食品。カカオは実から豆(種)を取り出して収穫後、7日~10日ぐらいかけて発酵させるのですが、発酵中に色が変化し、香りも変わるなど劇的な科学反応を起こします。カカオはこの発酵過程が味の決め手になるといっても過言ではないのです。発酵の仕方に統一した方法はなく、農家が10あれば10通りの方法があるほどそれぞれが工夫を凝らして行っています。そこは企業秘密ともいえるかもしれません。新しい試みとしては、ナチュラルにカカオそのものがもっている微生物だけではなく、チーズのように他の微生物を加えて味をコントロールしているところも出てきました。世界のカカオの産地は発展途上国が多いので、他の産地に比べてハワイの発酵技術が進んでいるということもあるでしょう。ハワイ産カカオを使用したチョコレートの評価が高いのもそんなところが要因となっているのかもしれませんね。

 

ハワイには主要カカオの3種が育つ

カカオの木は大きく分けて3種類。1つ目は南米を発祥とするクリオロ種。最高級の豆と評価する人も多く、豆を割ると、胚乳部が白いのが特徴です。1つの木から収穫されるカカオポッドが少なく、病気に弱いため、一部の地域を除いてあまり生産されていません。

2つ目はアマゾン低地を発祥とするフェラステロ種。生カカオの胚乳部は紫色。これがポリフェノールのあるしるしです。世界のカカオの生産量の60~70%はこの種が占めています。

3つ目がクリオロ種とフェラステロ種の掛け合わせ、トリニタリオ種です。トリダードドバゴで生まれ、フェラステロ種と同じ胚乳部は紫色。従来はこの3種と言われていましたが、現在カカオは14種まで発見されていて、米国農務省(USDA)がアマゾンの秘境などで多様な植物発見の努力を続けているので、まだ増えることが予想されています。 そして、ハワイのカカオはどうかというと、DNAフィンガープリントで調べたところ上記の3種全てがあることがわかりました。栽培地域が限定されるとするクリオロ種がハワイで長年自然に保全されて、現在でも元気に育っていることにも驚きますね。