アメリカのみならず、世界中に影響を与えるワイン評論家の「ロバート・パーカー・ジュニア」。彼の出現により、カリフォルニアワインのワイン造りに変革が起りました。しかし、ここ近年カリフォルニアワイン造りに大きな変化が訪れているといわれています。今回はカリフォルニアワインの多様化について紹介します。
アンチパーカーの増加
ロバート・パーカーのワイン評論方法は、ワインの色、香り、味わいなどを採点していき、最終的に100点満点でワインの点数結果を発表します。90点以上が「優秀ワイン」と認定され、このレベルに到達したワインは価格が高騰します。しかし、このやり方に異議を唱える生産者や関係者などが増加。アンチパーカーと呼ばれる人々が現れました。
果実味爆弾
ロバート・パーカーが好むワインには傾向がありました。それが、果実味溢れたアルコール度数の高い濃厚なワインです。カリフォルニアの多くの生産者は商売のために、彼の味覚に寄り添ったワインを造るようになってしまっていたのです。そのワインは「果実味爆弾」と揶揄され、エレガントなワインと対極にある、「商業ワイン」と批判を多く浴びました。
IPOB発足
当時、濃厚なカリフォルニアワイン造りにうんざりしていた人物のひとりに、ラジャット・パーという人物がいました。自らも生産者であり元ソムリエという立場から、テロワール(ブドウを取り巻く気候、土壌などの自然環境全体の意味)を意識した「カリフォルニアの土地の味」を表現する、繊細でエレガントなワイン造りを普及させるための啓蒙活動をスタートさせます。 結果、2011年に創立されたのが、「IPOB(In Pursuit of Balance)」という非営利団体です。彼の活動に賛同したワイナリーが36集まり、カリフォルニアのピノノワールとシャルドネにおいて、土地の味わいを表現する、新しいワイン造りがスタートしました。
真っ向対決
パーカーの築き上げた牙城を崩すために数多くの苦労を伴ったIPOB。しかし、徐々に「食事に合うワイン」と評価が高まり、レストランのなかには、米国ワインのラインナップにおいてIPOB以外は置かないという場所も出現したのです。 当然、この動きにロバート・パーカーが不快感を示さないはずはありません。「ブドウの熟度が足りない、未熟な青臭いワイン」と、辛口なコメントを浴びせています。しかし、どこでも同じ味わいを生み出すワイン造りではなく、その土地の魂をワインに吹き込む『地ワイン』を造ることは、今やカリフォルニアのみならず、世界のワイン造りの潮流となっているのです。
多様化
対極のワイン造りを推奨する、パーカーとIPOB。対立構造が浮き彫りとなっていますが、カリフォルニアワインのあり方が多様化されることで、我々の選択肢は増えていることも確かです。味の優劣をつけるよりも、シンプルにワインの楽しみを広げてくれたと歓迎したいですね。
写真 http://wineemotionusa.com/master_sommelier_rajat_parr/
ナカゴミコウイチ 東京都在住。ワイン好きの裾野を広げるため、WEBサイトを中心にワインコラムを執筆しています。 |